朝ドラ『虎に翼』原爆裁判の判決が出た昭和38年はどんな年? 鉄腕アトム、3分クッキング、ワンタンメン誕生…高度経済成長期の日本の暮らし
朝ドラ『虎に翼』外伝no.64
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』は、第23週「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」が放送された。寅子(演:伊藤沙莉)らが担当する「原爆裁判」はいよいよ判決が言い渡された。時は昭和38年(1963)、ドラマではあまり描かれないが、高度経済成長期に突入した日本においてライフスタイルや文化の変革期を迎えていた。
■「もはや戦後ではない」日本の戦後復興
昭和20年(1945)に終戦を迎え、敗戦国として焦土からの復興の道を歩み始めた日本にとって、大きな転機となったのが、昭和25年(1950)に始まった「朝鮮戦争」だった。開戦直後からアメリカによって大量の物資が買い付けられた。これによって日本は朝鮮特需という追い風に乗り、経済的な復興を進めていった。GHQの占領下から離れた後、昭和28年(1953)には戦前の水準を上回り、昭和31年(1956)10月には経済白書の序文において「もはや戦後ではない」と宣言されるに至ったのである。
日本では、実質経済成長率が年平均で10%前後を記録した1955年頃から1973年頃までを高度経済成長期とされることが多い。『虎に翼』ではこの期間をかなりカットしているが、日本は既に高度経済成長期に入っているのである。
原爆裁判の判決は昭和38年(1963)12月7日に下されたが、この昭和38年というのはまさに日本のライフスタイルや文化が大きな転換点を迎えた年だ。以下に主な出来事をざっと列挙する。
【食文化】
・北海道コカ・コーラボトリング設立
・江崎グリコが「グリココーン」を発売
・シスコ製菓が「シスコーン」を発売
・サントリーが「サントリービール」を発売
・日清食品が「日清焼そば」を発売
・サンヨー食品が「ピヨピヨラーメン」を発売
・エースコックが「ワンタンメン」を発売
【テレビ番組】
・フジテレビ系で日本国産連続30分テレビアニメ第1号『鉄腕アトム』放映開始
・日本テレビ系全国ネットで『キユーピー3分クッキング』放送開始
・NHK総合テレビで大河ドラマ第1作『花の生涯』放送開始
・毎日放送系ネットのクイズ番組『アップダウンクイズ』放送開始
・第14回NHK紅白歌合戦で歴代最高視聴率81.4%を記録
・女性週刊誌「女性セブン」(小学館)創刊
【主なヒット曲】
・ザ・ピーナッツ「恋のバカンス」
・真理ヨシコ「おもちゃのチャチャチャ」
・坂本九「見上げてごらん夜の星を」
・梓みちよ「こんにちは赤ちゃん」
【国内/国際情勢】
・同年に誕生した北九州市が全国6番目の政令指定都市となる
・大阪駅前に日本初の横断歩道橋設置
・日本初の高速道路として名神高速道路の栗東~尼崎が開通
・伊藤博文の肖像をあしらった新千円札が発行される
・アメリカのジョン・F・ケネディ大統領がテキサス州ダラスで暗殺される
・初の日米間の衛星中継実験に成功
昭和39年(1964)には東京オリンピックが控えるなか、日本のインフラはどんどん発達し、食文化は西洋化、インスタント食品も普及していった。娯楽面でも、アニメやドラマ、映画、音楽など豊かな文化が醸成されていく。
経済・文化面では「もはや戦後ではない」と言えるようになったのは事実だろう。しかし、終戦からまだ20年経っていない段階だ。癒えきらない傷を抱えながら、目まぐるしく変化する社会のなかで置いてきぼりにされる人々の想いも数えきれない。
いよいよ本作が描いてきた「原爆裁判」が終わった。戦争を振り返った先で、寅子たちはどんな答えを見出し、昭和の日本をどのように生きていくのだろうか。

昭和37年10月に撮影された現在の池袋駅西側の様子。
『甦った東京 : 東京都戦災復興土地区画整理事業誌』より(国立国会図書館蔵)