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大河ドラマ『光る君へ』藤原道綱母が見せた妾の切なさ 『蜻蛉日記』に記された「わかってるけど嫉妬する」女心


大河ドラマ『光る君へ』で、藤原兼家の妾として登場し、息子・道綱(演:上地雄輔)の人生を案じ続けた藤原道綱母(演:財前直美)。石山寺でまひろ(演:吉高由里子)と出会った際には、妾として日陰で生きる切なさを書くことで昇華させたと語った。今回は彼女が書き残した『蜻蛉日記』から、作中で登場した有名な和歌にまつわるエピソードをご紹介する。


 

■新たな女を巡るやりとりすらも機知に富む

藤原道綱母
『百人一首』/国立国会図書館蔵

 藤原道綱母が19歳頃、兼家が26歳頃のこと、兼家からの熱烈な求婚によって2人は結ばれることになった。当時兼家の父・藤原師輔は右大臣、対する道綱母の父は一介の受領に過ぎなかったというから、格差婚と言える。最初は身分の差もあって乗り気ではない彼女も、熱心に文を送り続ける兼家をやがて受け入れた。

 

 さて、百人一首にも採られた有名な和歌がある。
嘆きつつ 独り寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
(嘆きながら独りで眠る夜、夜明けまでの時間がどれほど長いものかをあなたはご存知でしょうか)

 

 この歌が詠まれる少し前、道綱母宅で一緒に過ごしていた兼家は急に「これから宮中に行かねば!」と出ていく。「いやそれはどう考えてもおかしいでしょう」と怪しんだ道綱母は、召使に後をつけさせた。結果は「町の小路のどこそこで車(牛車)をお止めになりまして……」ということで、クロである。

 

「やっぱりか」とうんざりした道綱母、どうにかしてこの鬱憤をぶつけたい……と思い悩むこと数日、夜明け前の暗い時間帯に門を叩く音がした。兼家の来訪であることを察しつつ、「いやでもなあ」とどうにもやりきれない思いで門を開けなかった。すると兼家はあろうことか件の女がいるであろう屋敷の方に行ったというのだ。

 

 それでいい加減「よりによってその女のところに行くんですかそうですか」と腹が立った道綱母は、前述の和歌を送る。なんと色変わりの菊(移り気な浮気心を咎める意だろう)まで付けるという細やかさだった。

 

 兼家の返答はというと、以下である。
「あくるまでも試みむとしつれど、とみなる召使の来合ひたりつればなむ。いとことわりなりつるは。げにやげに冬の夜ならぬ真木の戸も遅くあくるはわびしかりけり」
(夜が明けるまでかかろうとも門が開くのを待とうとしたのだけれど、急ぎの使いが来てしまったもので。まったくあなたの言う通りです。なかなか明けない夜も辛いですが、戸をなかなか開けてくれないのもわびしかったです)

 

 なんと別の女のところに通って放置されたことの辛さを訴えられながら、「いやでも戸を開けてもらえなかったのもなかなか辛かったんだよね」と言ってきた。とは言えウィットに富んだやりとりをお互い楽しんでいるようでもあり、道綱母自身も夫とのひとつの思い出として受け止めたからこそ書き残しているようにも思えてならない。

 

 ちなみにこの前段として、道綱母が文箱から兼家がよその女(恐らくは町の小路の女)に宛てて書いた文を発見し、イラっとして文の端に「なんとまあ疑わしい。よその女に文を出すということはもう私のところにおいでにならないおつもりかしら」と書きつけている。

 

 夫の文箱から他の女の気配がする……というのは、『光る君へ』で倫子が道長の文箱からまひろの文を発見し、他の女がいるのではと疑うシーンを彷彿とさせる。妾となった道綱母と、道長の妾になることを拒んだまひろ、2人の才女の石山寺での邂逅は、なんともニクい演出だった。

 

<参考>
■『蜻蛉日記 ビギナーズ・クラシックス』(角川ソフィア文庫)

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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