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「妻の母親」と恋におちて不倫!桓武天皇が激怒し、「薬子の変」につながったスキャンダルとは?

日本史あやしい話8


藤原道長の出身母体となった藤原北家。その躍進のかげに、死に追いやられた人がいたことを知っているだろうか? 桓武天皇の第3皇子・伊予親王も、そのひとり。その過程では、桓武天皇の子・平城天皇が、妻よりも「妻の母親」にときめき、恋愛関係に発展するというドロ沼不倫事件が起きていた。


 

■藤原道長がこの世の春を謳歌できた理由とは?

 

栄花物語図屏風(ColBase) 

「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の かけたることも なしと思へば」

 

 いうまでもなく、誰もが知る藤原道長の歌である。我が娘・威子(いし)立后祝宴の場において、得意満面にのたまった様相が眼に浮かんできそうだ。

 

 来年1月から放映が開始されるNHK大河ドラマ『光る君へ』では、主人公・紫式部との間柄がどのようなものであったのか、その辺りの事情が詳しく語られることもあるだろう。大いに期待したものである。

 

 ともあれ、本題に入ろう。道長といえば、この三女・威子ばかりか、長女・彰子や次女・姸子までもを后としたことで、「一家立三后」と称えられ、外戚としての地位を確固たるものにしたことはご存知のとおり。藤原氏の全盛期を築き上げた人物と言っても過言ではない。

 

 しかしその躍進は、必ずしも外戚になったことだけに起因するものではなかった。それ以前に、彼が藤原四家(北家、式家、南家、京家)の一つ・藤原北家の出自であったことが重要であった。

 

 北家の祖とされる房前(ふささき)以来、代々藤原氏長者を勤めた北家は、四家の中で最も栄えた家系である。当時の情勢としては、「北家出身者でなければ、権勢の頂点に登りつめることなどありえなかった」とも言えるのだ。

 

 藤原北家も、四家の中にあって、当初から安定勢力を保ち続けていたわけではない。もともと藤原氏といえば、橘氏や伴氏、菅原氏、源氏などなど、他氏を排斥して確固たる勢威を誇った氏族であったが、同時に、同じ氏族内においても、血みどろの抗争を繰り広げていたのである。

 

 房前の子・魚名(うおな)が桓武天皇即位後に左大臣に任じられたものの、早くもその翌年には罷免されている。謀反(氷上川継の乱)に加担したことで天皇の不興を買ったためと言われることもあるが、果たして? その真偽はともあれ、これを契機として北家の勢威が衰えたことは確かで、南家や式家の勢力に押され気味となったのである。

 

 もちろん、北家がわが家門の勢力後退を黙って見ているわけがなかった。あの手この手を駆使して、勢力挽回を図ろうと、手を尽くしたことは言うまでもない。

 

 武家と違って武力を用いることはなかったが、讒言という卑怯な手口で他家を陥れたことも少なくなかった。その対立抗争の犠牲になった人物も数知れなく存在するが、ここに紹介する桓武天皇の第3皇子・伊予親王(いよしんのう)も、その一人であった。

 

 母は、藤原吉子(きっし)。右大臣であった藤原南家の藤原是公(これきみ)の娘である。まずは、この母子に降りかかった不運な事件から見ていくことにしたい。

 

■藤原北家躍進の犠牲となった伊予親王の悲運

 

 時は大同元年(806年)、桓武天皇が崩御し、嫡男・安殿親王(あてしんのう/平城天皇)が即位した直後のことである。密謀を凝らしたのは、一説によれば、藤原式家の藤原仲成(なかなり)。仲成といえば、平城天皇を虜にした薬子(くすこ)の兄である。この仲成が北家の宗成(むねなり)を唆し、伊予親王が謀反を目論んだというばかりか、その首謀者だったとまで言わしめたのである。

 

 これを耳にした平城天皇が激怒。即座に伊予親王と母・吉子を河原寺に幽閉。飲食まで絶たせたというから、その恨みようは半端ではなかった。もちろん身に覚えのない母子が否認するも認められず、とうとう毒を仰いで自害してしまったのだ(伊予親王の変)。

 

 これによって、伊予親王の出身母体であった南家までもが没落。つまり、「式家と北家が手を組んで南家を陥れた」という図式が成り立つのである。一番得をしたのは、事件後に平城天皇との関係性がより強固なものとなった式家の仲成・薬子兄妹であった。

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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