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江戸時代の立ちんぼ 「夜鷹」というお仕事 第3回~実は大家の女房も~

江戸の性職業 #009

■実は大家の女房も

『慎道迷尽誌』

図4『慎道迷尽誌』(曼鬼武著、享和3年)、国立国会図書館蔵

 江戸時代、女の職業は少なかった。生活に困窮した夫婦で、女房が働き出ようと思っても、職場がない。
やむなく、夜鷹に出る女は少なくなかった。

『元禄世間咄風聞集』に、次のような話がある。

 

 芝あたりの裏長屋に住む浪人は毎晩、妻を夜鷹に出し、自分は妓夫をしていた。

 隣に住む浪人も、同じく妻を夜鷹に出していた。

 ある日、ふたりは話し合った。

「いくら生活のためとはいえ、自分の女房が不義をしているのを見るのはつらい。貴殿の女房をそれがし、それがしの女房を貴殿が見張るのはどうじゃ」

「それは名案じゃ」

 こうして、お互いに相手の妻の妓夫をつとめることになった。

 その夜、いつもの場所で夜鷹商売をした。

 浪人が、隣人の妻をうながした。

「もはや四ツ半(午後十一時ころ)だから、帰ろうではないか。大家が長屋の路地の木戸を閉じてしまうと、面倒だぞ」

「お気遣いなされますな。今夜ばかりは、夜がふけても木戸はあいております」

「なぜ、そのようなことがわかる」

「今夜は、大家のおかみさんも稼ぎに出ています」

 

 大家の女房まで夜鷹に出ているという落ちがあり、一種の笑い話になっているが、実情は悲惨である。
よほどの貧乏長屋だったに違いない。

 

 図4では、夜鷹が男を引っ張っている。

 その気のないない男からすれば、なんとも迷惑であり、腹立たしくもあったろう。

 しかし、女の方からすれば必死だった。

 ひと晩のうちに何人かの客を取らないと、それこそ食べていけなかったのである。

『花容女職人鑑』

図5『花容女職人鑑』(歌川国貞)、国立国会図書館蔵

 図5は、夜鷹がふたり連れで、商売に行くところ。ここも「辻君」と記されている。

(続く)

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。

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