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べニア板で設計!? 使い捨てできる強襲グライダー「ワコCG-4ハドリアン」 

第2次大戦グライダー物語 第3回 ~空飛ぶ精鋭部隊を運ぶ沈黙の輸送機~

■米英で重用され連合軍の作戦で活躍

曳航されて飛行中のワコCG-4ハドリアン強襲グライダー。製造を簡易化するため胴体の正面断面形は手のかかる丸型ではなく箱型で、主翼にも工程が増えるテーパーはかけられていないことがわかる。

 降下服のズボンがポケットの多いバギーパンツだったため、“バギーパンツを履いた悪魔”の愛称でも呼ばれたアメリカ陸軍空挺部隊の正式な創設は、イギリスの場合と同様に第二次大戦勃発後だった。

 

 そして、一定数の空挺兵をまとめて同一降着地点に送り込んだり、空挺部隊にとっては「重装備」となるジープや空挺部隊用野砲を運搬する手段として、グライダーの使用を考えついた点もイギリスの場合と同じだった。

 

 そこでアメリカ陸軍航空軍は、ワコ航空機会社に強襲グライダーの設計を発注した。その条件は、生産が容易でコストが安く、簡単に操縦できて整備や修理がしやすいというものだった。これは、パイロットを養成しやすく、戦況によっては回収を考慮せず使い捨てできる機体を求めていたからだ。

 

 そこでワコ航空機会社は、鋼管で機体構造のフレームを組み上げ、これに羽布やべニア板などを張り付けた設計の強襲グライダーを設計した。同機はCG-4ハドリアンと命名され、輸送機のダグラスC-47スカイトレインまたはカーチスC-46コマンドーで曳航された。

 

 固有の乗員はパイロットとコパイロットの2名。これに完全装備の空挺兵13名かジープ1両と兵員4名、またはこれらと同等の重量の装備や兵器を搭載することができた。

 

 ハドリアンの初陣は19435月のシチリア島侵攻作戦「ハスキー」だった。本機はイギリス連邦軍にも供与されていたため、以降の連合軍の空挺作戦のほとんどに投入されて活躍したが、イギリス製のエアスピード・ホーサに比べて、搭載量が少ないことが現場の不満としてあげられた。

 

 また、ノルマンディー上陸作戦「オーヴァーロード」にともなう空挺作戦では、アメリカ第101空挺師団「スクリーミング・イーグルス」の副師団長ドン・プラット准将を載せたハドリアンが着陸に失敗して木立に激突。搭載していたジープと機体に挟まれてプラットが戦死するという事故が生じたりもした。

 

 だがそれでも強襲グライダーとしての評価は高く、特にビルマ戦域ではイギリス軍の特殊部隊「チンディット」が兵員や負傷兵、各種の補給物資や兵器の空輸に多用している。総生産機数は約14000機であった。

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白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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