実の兄弟2人に「子づくりを強いられた女神」デメテルの悲劇 ゼウスとポセイドンを拒めなかった理由とは
ギリシア神話の世界
■兄弟に迫られたデメテルの悲運
ギリシア神話で好色この上なき男神と言えば、一番にくるのは間違いなくゼウスだが、ゼウスのすぐ上の兄ポセイドンも相当なものだった。女神、ニンフ、人間に加え、見た者すべてを石化させる妖女メドゥサとの間にも子をもうけているのだから。
そんなゼウスとポセイドンの兄弟がそれぞれ別の機会に、同じ女神をレイプし、それぞれの子を生ませたことがある。その被害者は、ゼウスにとってもポセイドンにとっても姉にあたる豊穣の女神デメテルだった。
日本神話でもイザナギとイザナミの例があるように、神話の世界では兄と妹、姉と弟間の近親婚は珍しくない。だが、レイプによる妊娠出産となると話は別である。筆者の知る限り、ギリシア神話以外に例を見ない。
デメテルはクロノスとレアー(これまた近親婚)の間の次女。長女にヘスティア、妹にヘラがいるが、ヘスティアは神々の前で処女神であり続けることを公認されたから除くとして、ヘラに言い寄った男神はゼウス以外に存在しない。ポセイドンは処女神として公認される前のヘスティアに求婚したことはあっても、ヘラにはまったく欲情を抱かなかった。この違いはいったい何によるのか。
その答えは女神としての役割の違いにあるのかもしれない。ヘラが結婚と出産を司り、家庭や既婚女性を守護する役割を担っていたのに対し、デメテルは豊穣の神であると同時に農業と穀物の神でもあった。別な言い方をするなら、大地の生命力と生産力を神格化した存在である。
一方、ゼウスは雷神にして天空神でもあり、雨や雪なども彼の思いのまま。ポセイドンは海神であると同時に泉と地震の神でもある。雨水と雪解け水はどちらも大地を潤すのに欠かせず、泉にも同様の役割がある。
つまり、大地が豊穣をなすためには雨水と雪解け水、泉から湧く水のどれもが必要不可決ということ。好むと好まざるに関係なく、受け入れるしかない。
デメテルとゼウス、デメテルとポセイドンの関係もまさしくそれ。いくら手荒なやり方であろうと、結局は相手から発せられる液体を受け入れ、生まれた子を愛さずにはおけない。相手がどんな男であろうと、和姦であろうとレイプであろうと、豊穣をもたらすのに必要不可欠な以上、途中で抵抗をあきらめ、受け入れるしかない。デメテルを巡る神話には、このような意味が秘められているのではないだろうか。
ちなみに、安彦良和の漫画デビュー作『アリオン』はデメテルの子を主人公とする。途中まで、父親はポセイドンのように描かれながら、実の父はデメテルの真の夫で、アリオンを運命の子としたのは、何とも小気味のよい展開だった。

イラストAC