遊女ならではの「ガチ恋客」の対処法とは!? 凄まじい修羅場を乗り切った危なすぎるテクニック
炎上とスキャンダルの歴史
■遊女が面倒な客をも虜にした手練手管
「率直すぎる接客」で知られた大坂・新町遊郭。江戸時代を通じて全国から押し寄せる男たちで賑わいました。人気の遊女ともなれば、馴染客を複数抱えることになります。つまり、忌避されがちな「ガチ恋客」をいかにうまく捌けるかが、重要なのでした。
「ガチ恋客」は、プロに対しても「お前はほかの男と会っている」などと意味のわからないことを言ってブチ切れがちですよね。
こういうとき、「あなただけは客と遊女の関係じゃない、私は本気」と、本当は見えない心の中を可視化する方法として遊女が採用していたのは、髪や爪、さらには小指の先(!)などを切って渡すという「心中立て」なのでした。基本的に刑死人や行倒れの遺体から取られたものを買っただけでしたが……。
新町遊廓のあれこれをてんこ盛りにした『難波鉦』という17世紀後半成立の遊女評判記によると、定家(ていか)という名前の遊女もこの手の「心中立て」を様々な「ガチ恋客」に繰り返しまくっていたそうです。
しかしある客がストーカーになってしまい、「お前はオレ以外の男にも髪の毛とか切って渡してるだろう!」という真実を私立探偵ばりに調査してしまったことがありました。
そして「遊女にまことなどはない」という痛すぎる現実に直面した「ガチ恋客」が定家のもとに押しかけ、怒鳴りまくるという凄まじい修羅場となったのです。夜職あるあるの光景ですが、プロの中のプロ女性である遊女はどうやって乗り切ったのでしょうか。
第一のポイントは「涼しい顔」。男の興奮に呑まれてはいけません。
第二のポイントは「否定しない」。言い訳など論外なんですね。男の疑惑は事実だとあっさり認め、開き直るほうが予後がよいそうです。
そして第三のポイントが、男が怒っているのに疲れてきた頃合いで「あなた以外の男は田舎者」などと、ほかの客をサゲる発言をすること。当時の遊郭では「田舎者」、つまり「ださい」といわれることは死刑宣告に等しいのでした。
そして「お酒の席でもりあがったからしただけ」「そういうのが遊女の仕事なのよ」など、商売女モードで畳み掛けるのです。
そして、四つ目にして重要なポイントが「簡単には謝らない」ことです! 客が落ち着いてきたところで、はじめて「ごめんね」と謝って、仲直りエッチにもちこむのが大事。客が激昂するのは、本気で自分に惚れている証。そこをうまくコントロールすれば、いっそう沼らせることができる……というのが、筆者なりの『難波鉦』の「超訳」となります。
なんとなく現代でも応用できそうな気がするのですが、やはり特殊な訓練を受けた人以外の良い子はマネしちゃだめですよ。
客から身請けされるか、20代後半になるまでは続く遊女としての年季が開けるまでは廓(くるわ)の外の世界に出ることが許されない遊女――つまり、崖っぷちに立たざるをえない女たちだからこそ可能な、リスキーかつデンジャラスすぎる接客のような気はしますから……。

イメージ/イラストAC