「タフな交渉人」とアメリカの新聞も大絶賛… 欧米の圧力に屈しなかった小栗忠順の「すごい対米交渉」とは?
世界の中の日本人・海外の反応
2027年NHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』の主人公(演:松坂桃李)に決定し、注目が集まっている小栗上野介忠順(おぐり・こうずけのすけ・ただまさ)。彼は経済通として欧米列国と渡り合い、関税率改定に尽力したほか、アメリカに押し付けられていた不平等な交換レートについては、造幣局で貨幣の成分分析をさせるなどして日本の正当性を科学的にも証明し、アメリカ政府関係者を驚かせた。「トランプ関税」への日本の出方も試されている今、あらためてアメリカの新聞にも絶賛された小栗の対米交渉について見ていこう。
■貿易量が増えるほど、日本の損が膨らむ「不平等すぎる交換レート」
小栗忠順(おぐりただまさ)は幕末に名を刻んだ旗本出身の幕臣である。勘定奉行を務めた時期があることから、徳川埋蔵金絡みで話題にされることが多いが、埋蔵金の有無はともかく、小栗の真価が最もよく発揮されたのは、遣米使節目付(監察)として渡米した際に行なった通貨交換比率の見直し交渉にあった。
江戸幕府は武士の給与を米で支払いながら、金・銀・銅からなる三貨制度を実施。元来、金と銀は重さで価値を量る秤量貨幣として流通させていたが、江戸時代後期には重さに関係なく、4枚で金1両と同価値とする計数貨幣(名目貨幣)の「一分銀」に変更。幕府がお墨付きを与えることで、実際の重さの3倍の価値を持たせたのである。
経済が日本一国だけで完結している限りは問題なかったが、開国後、初代アメリカ総領事のハリスから、「通貨は同じ種類(金は金、銀は銀)を同じ重さで交換するのが国際標準」と押し切られ、1米ドル銀貨=一分銀3枚の交換レートを認めさせられてしまった。
当然ながら、これでは日本側の大損である。貿易量が増えれば増えるだけ日本側の損が膨らみ、外国人は米ドルを一分銀、一分銀を金小判、金小判を米ドルに交換するだけで莫大な利益を上げることができた。
このような事態を放置しておくわけにはいかず、安政7年(1860年)、日米修好通商条約批准のため渡米する小栗に大役が託されたのだった。
■小栗のタフな交渉で、アメリカの「日本を見る目」が変わった
道理では日本側に分があるが、交渉の場におけるアメリカ人は圧が強く、たいていの日本人は気押されて、反論はおろか、「ノー」と応えることさえできなかった。けれども、小栗は異なる。「一分銀が紙幣のような通貨」であることを強調した上、フィラデルフィアの造幣局で成分分析をしてもらい、日本側の主張が科学的にも正しいことを証明してみせた。
それでもアメリカ側は見直しを渋ったが、小栗がいささかも臆することなく、アメリカ側の言い逃れに対して「ノー」を繰り返したところ、ついには折れて、日本が新銀貨を作るまでの間、米ドル銀貨と一分銀の交換は禁止して、為替レートを金1両=3ドル60セントとすることで落着した。
当時のアメリカの新聞も小栗を、「タフなネゴシエーター(交渉人)」として称え、アメリカ政府関係者もこれを境に、日本の施設や使節を見る目を変えたと言われている。小栗が明治維新後も存命であったら、その爪の垢がさぞかし高く売れたはずである。

ヴェルニー公園の小栗上野介忠順像