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トランプ大統領が自動車関税25%を正式表明 関税を積極的に発動する歴史的な理由とは?

■日本の自動車産業に大打撃を与える関税

 

 2025年3月25日、トランプ大統領が輸入自動車に25%の関税を課すと発表し、4月2日から実施すると明言した。これにより、日本では大きな不安が広がっている。日本の自動車産業は米国への輸出に大きく依存しており、トヨタ、ホンダ、日産などのメーカーは深刻な影響を受ける可能性がある。しかし、トランプ氏はなぜここまで積極的に関税を発動するのか。そこには、経済的、政治的、歴史的な背景にある。

 

 まず、トランプ大統領は貿易赤字を嫌い、輸入が多いことを「損失」と考える。彼は国家としてのアメリカを企業のように見なし、関税で輸入を減らして製造業など国内企業を守ろうとしている。今回の自動車関税も、「アメリカで作られていない車」に25%の関税をかけるとし、製造業を復活させる狙いがある。これによって、関税が物価を上げたり他国の報復を招く可能性が十分にあろう。実際、トランプ政権の1期目に鉄鋼やアルミニウムに関税をかけた際、中国やEUが対抗措置を取り、貿易戦争が起きた。それでもトランプ大統領は、短期的な問題より「アメリカ第一」を優先している。

 

 また、トランプ大統領にとって関税は政治や外交の武器でもある。彼は関税を使い、他国に圧力をかけてアメリカの利益を引き出してきた。今回の自動車関税では、「アメリカで工場を建てれば関税は不要」と言い、海外企業に現地生産を促している。これは雇用を増やし、支持者である中産階級や労働者にアピールする戦略である。また、メキシコやカナダには、不法移民や麻薬対策を求めるために関税をちらつかせてきた。2025年2月にこれらの国への関税を延期したが、協力がなければ発動すると警告している。関税は通商以外でもトランプ大統領にとって重要な手段だ。

 

 一方、歴史を振り返れば、アメリカは昔から関税を使い、国内産業を守ってきた。例えば、19世紀のモリル関税法は南北戦争の資金を集め、北部の製造業を保護した。1930年のスムート・ホーリー関税法は関税を40%に上げたが、他国の報復で貿易が縮小した。戦後は自由貿易が主流になり、関税は減ったが、トランプ大統領はこれに逆行している。1期目でも鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課し、日本も影響を受けた。今回は自動車が対象となり、日本は再び対応を迫られる。

 

 日本への影響について、日本の対米自動車輸出は年間6兆円以上、148万台に上る。25%の関税で価格が上がり、競争力が落ちる。野村総合研究所によると、日本経済のGDPが0.2%下がる可能性がある。部品メーカーにも影響が及ぶだろう。トランプは日本などに米国での生産を増やすよう求めている。韓国ヒョンデは既に米国で3兆円の投資を決めているが、日本企業はコスト面で難しい判断を迫られる。

 

 トランプ大統領が関税にこだわるのは、貿易赤字を減らし、製造業を復活させたいという経済哲学と、政治的な戦略、そして過去の保護主義の影響だ。彼はアメリカを再び偉大にしようとしているが、国内での物価上昇や同盟国との関係悪化のリスクもある。トランプ関税は本当にアメリカの国益に貢献するものになるのかどうか、今後も諸外国はこれに悩まされ続けることになろう。

イメージ/イラストAC

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プロバンスぷろばんす

これまで世界50カ国ほどを訪問、政治や経済について分析記事を執筆する。特に米国や欧州の政治経済に詳しく、現地情報なども交えて執筆、講演などを行う。

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