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遊女であることを「勤め(つとめ)」と表現【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語83


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■勤め(つとめ)

 

 遊女の仕事、境遇のこと。

 

「勤めする身」や「勤めの身」は、遊女であることを意味する。

 

 女の代表的な職業は女中と下女だが、「勤め」とはいわず、「奉公」という。

 

 男の仕事の場合も勤めとはいわず、奉公という。

 

 図は、画中に「契情」とあるが、「傾城(けいせい)」の意味。つまり、吉原の遊女である。勤めする女の代表といえよう。

【図】勤めする女。『絵本笑上戸』(喜多川歌麿、享和3年/国際日本文化研究センター蔵)

(用例)

 

①春本『魂胆枕』(北尾政美、天明六年頃)

 

 遊女は客の男とのセックスでは感じるふりをするだけで、本当は感じない。しかし、男に陰茎を挿入されると、

 

 抜き差しきびしく、こすれる気味、勤めの身にも、えならぬ心地、

「これは何さま、薬でも付けはせぬか」

 と、ついぞなく、鼻息自然と内へ引き、どこともなしに味になり、

 

 遊女は高まる快感に、男が何か媚薬を用いたのかと疑うほどだった。

 

 

 

②戯作『会席料理世界も吉原』(市川三升、文政八年)

 

 吉原の遊女の嘆き。

 

 我は親同胞(おやはらから)のため、身を沈めたる恋の淵、憂き河竹の勤めの習い、風に柳の吹くままに、夜ごとに代わる仇枕、ほんに辛気な苦の世界、

 

「憂き河竹の勤め」は、遊女の境遇をいう常套句である。

 

 

 

③春本『夫は深艸是は浅草百夜仮宅通』(歌川国貞、天保七年)

 

 年季が明けて吉原を出たあと、今は茶屋をやっているお光。吉原で顔見知りだった仲芳という男と再会する。昔話をしているうち、仲芳が、

 

 お光が股ぐらへ手をやれば、以前は勤めをした身でも、いま素人の年増盛り、この戯れに精水(きみず)出て、ぬるぬるするを、仲芳は二本の指でくるくるとかきまわし、

 

 精水は、陰部からしみ出る粘液である。淫水ともいう。

 

 

 

④戯作『娘消息』(曲山人、天保七年)

 

 吉原の花魁(おいらん)が身請けされ、所帯を持っている。吉原で顔見知りのお糸という女と再会する場面。

 

 

 糸「ほんに、花魁え、私はまだ今でも、あなたが花街(ちょう)においでなさるとばっかり、存じておりましたよ」

 

 花「あれさ、お糸さん、もう花魁とお言いでないよ。私もおまえの知る通り、観音さまや、向島の大師さまへ願かけした、そのおかげとやら、勤めを逃れて、願いの通りに添われましたよ」

 

 花街を「ちょう」と読ませている。ちょうは、第七回参照。

 

 

 

⑤春本『春色三筋の引初』(幕末期)

 

 吉原の遊女の性技に、客の男は感激しながらも、つい嫌味を言う。

 

 男「こう、こう、おめえ、こうしてさせたは有難えが、またほかの客人にも同じようにさせるだろうと思うと、なんだか有難くねえわけさの」

 

 女「おや、もう、おまはん、何を言いなますえ。わたしゃあ、こういう勤めの身でありんすから、何と言いなんしても仕方はありいせんが」

 

 遊女の境遇だからほかの男ともセックスをするが、本当にするのは、あなただけだと言い、男を嬉しがらせる。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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