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危険な地雷を叩き上げて爆破除去する【M4シャーマン・クラブ地雷処理戦車】─戦車ビフォー・アフター!─

戦車ビフォー・アフター!~ニーズが生み出した異形の装甲戦闘車両たち~【第3回】


戦車が本格的に運用され「陸戦の王者」とも称されるようになった第二次世界大戦。しかし、戦車とてその能力には限界がある。そこでその戦車をベースとして、特定の任務に特化したAFV(装甲戦闘車両)が生み出された。それらは時に異形ともいうべき姿となり、期待通りの活躍をはたしたもの、期待倒れに終わったものなど、さまざまであった。


【After】
地雷除去作業中のM4シャーマン・クラブ。「普通の戦車」と同じく砲を備えているので、待ち伏せしている敵の機関銃陣地や対戦車砲陣地と交戦できた。

 地雷は第2次大戦で多用されるようになった兵器で、仕掛け罠のように兵員や車両が通りそうなところに設置し、間違えて踏んだり触ったりすると、爆発して大きな被害を及ぼす。

 

 種類も多く、人間の片足を吹き飛ばす程度の威力の対人地雷から、戦車のような重量物が乗らないと起爆しない対戦車地雷、ドイツ軍のSマインのように広い範囲に危険な破片をまき散らす目的で空中に飛び出してから起爆する跳躍地雷、地雷探知機に反応しない木材で造られた木製地雷などがある。

 

 地雷の処理は、工兵がゆっくりと匍匐前進(ほふくぜんしん)をしながら進路の地面に斜めに銃剣を刺して地雷を探し、地雷を見つけたら手で信管を外すというもっとも古典的な方法に始まって、地雷探知機で見つけ出した地雷を工兵が処理する方法、地雷原に砲撃を加えて誘爆させてしまう方法などがある。だが地雷原は、造りっぱなしではなく必ず周囲に機関銃陣地や対戦車砲陣地などを配して、その除去作業にあたる工兵や、地雷のせいで足止めになった戦車や車両に攻撃を加えるのがセオリーであった。

 

 そのため地雷は、ひっかかって起爆させることで被害が生じ、その処理作業に携わる専門職の工兵を斃(たお)すことで被害が生じるという、仕掛けた側にとってはきわめて役立つ兵器といえた。

 

 特に北アフリカ戦線で、「地雷原造りの天才」といわれることもある“砂漠の狐”ことエルヴィン・ロンメル将軍が手がけた地雷原によって手痛い損害を蒙(こうむ)ったイギリス軍は、地雷処理装置の開発に積極的だった。

 

 現地で運用されていたマチルダ歩兵戦車やアメリカ製のM3中戦車の車体前部に、車幅いっぱいの回転する円筒に多数の分銅鎖を取り付けたフレイル(から竿)と呼ばれる器具を装着。戦車の動力の一部を抽出してこれを回転させ、地面を叩き上げて地雷を起爆させる地雷処理装置を生み出したのだ。

 

 そしてこのメカニズムを当時のイギリス連邦軍の主力戦車だったM4シャーマンに搭載。シャーマン・クラブ地雷処理戦車として1944年のノルマンディー上陸作戦から実戦に投入し、地雷除去作業の効率化に加えて、工兵の犠牲の削減に大きな成果をあげた。

 

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過去記事

白石 光しらいし ひかる

1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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