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男が足の指で女の陰部を愛撫すること「毛雪駄(けぜった)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語㊼


江戸時代には現在では使われていない独特の言葉あった。ここではそんな言葉のなかでも「江戸時代に使われていた性語」をピックアップして紹介する。


 

■毛雪駄(けぜった)

 

 男が足の指で女の陰部を愛撫すること。足の指が陰毛に触れる感覚からの命名であろう。雪駄(せった)とは、竹皮の草履(ぞうり)の裏に牛皮を貼りつけたもの。

 

 炬燵(こたつ)の中などでおこなう性技、あるいはいたずらである。

 

 着物の場合、女の下着は湯文字(腰巻)で、一枚の布を腰のまわりに巻いただけだった。そのため、容易に足指が奥まで侵入できた。

 

 江戸時代特有の性技であろう。

 

 というのも、現代女性の下着では、スカートの中に指先を入れて奥まで進んだとしても、下着の布地にさえぎられて、肌に直接触れることはない。

 

【図】毛雪駄をしているところ。(『御覧男女姿』勝川春英、寛政元年、国際日本文化研究センター蔵)

 

【用例】

①春本『色見種』(北尾重政、安永六年)

 

 炬燵(こたつ)を囲み、男ひとり、女ふたりが話をしている。男はそっと足をのばし、ひとりの女の股のあいだに進ませた。この情景を川柳で、

 

 炬燵にて毛雪駄をはく面白さ

 

 もうひとりの女に気づかれないよう、さりげなく行わなければならない。スリルも毛雪駄の妙味であろう。

 

②春本『御覧男女姿』(勝川春英、寛政元年)

 

 大身の武士が、腰元に毛雪駄をしようとする。

 

 女「あれ、およし遊ばせ」

 男「これさ、恥ずかしいことはない。野暮なやつだ。じっとしていろ。馬鹿なやつだ」

 

 【図】は、毛雪駄をしかける様子である。

 

 身分制のある時代とはいえ、男は横暴だった。女の方はこういう状況で、馬鹿呼ばわりされるのだから、たまったものではない。

 

③春本『会本妃多智男比』(喜多川歌麿、寛政七年)

 

 夫婦で炬燵に当たり、亭主は酒を呑んでいた。

 

 亭主の一物が酒まらのほぎほぎ物で、かみさまの手にさわり、たがいに気が味になって、亭主が足の親指であしらえば、

「あれさ、もっと上の方」

 と、だんだん気味がよいやら、

 

 亭主が女房に毛雪駄をしかけた。女房はいやがっていない。まさに夫婦円満と言えよう。

 

④春本『浜の真砂子』(歌川国貞、文政十二年頃)

 

 炬燵の中で、男が足をのばし、女の陰部にさわる。

 

女「いけ冗談な。およし」

男「炬燵で毛雪駄はあたりめえだ。これこれ、じっとしていな。足の親指から気がいきそうだ。ああ、やわらかでいいぞ」

女「ええ、もう、じれってえ」

男「なに、じれったかぁ、こっちへ来や」

 と引き寄せて、はや吸いかかる口と口、

 

 かくして、ふたりは炬燵布団をかぶって、始める。

 

⑤春本『花相撲四十八手』(歌川国麿、嘉永期)

 

 炬燵にあたりながら、男がお水という女に、

 

 そっと、お水が内腿のあたりへ足をやってみるに、お水も心のありけるにや、知らぬ顔しているゆえに、なおも足をばさしのばし、親指をもて玉門を、そろりそろりとうかがい見るに、

 

 男は女の反応をうかがいながら、段々と図々しくなっていく。

 

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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