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なぜ「政治」のことを「まつりごと」と言ったのか? 縄文や弥生の「まつり」とは?


古い言い方で政治のことを「まつりごと」といいます。なぜ政治が「まつりごと」なのでしょうか?
面白い話がありますので、今回は妄想を逞しくして「政治=祭りごと」に関連した大昔の話をいたします。


 

■古代の日本における信仰とまつり

 

 人は大昔から祭りをしていました。1万年以上続いた縄文時代にも祭りはありましたが、残念ながらその情景を見ることはもちろん一切出来ません。

 

 ですから残された遺跡や文化財から創造を逞しくしてどこかの時代を切り取ってみると、この時代の祭りというのは人々が感じる大自然のすべての神に対して感謝と願いを全身全霊で表現したのではなかったか、と思われます。

 

 縄文時代の土版や土偶には、神の姿をうつしたのかと思いたくなる芸術的な物が多いですね。

それは彼らの精神世界を垣間見ることができる唯一のヒントかもしれません。特に生命を胎内から生み出す女体の神秘を崇め、子孫繁栄を強く願ったと思われる土偶が目立ちます。そういった願いを込めた神々しい姿を土偶として祀ったのでしょうか。受胎の時や子供が無事に生まれた時、人がなくなった時や自然災害があった時など、集落単位で神に祈ったことでしょう。

土偶には女体を模したものが多い。
東京国立博物館蔵/ColBase

 さらに採集狩猟生活の縄文時代は実り豊かな秋になると、冬への備えを村中で時には近隣の村と協力をして全力で行ったようです。春を迎えて活発な採集狩猟を再開できる頃になると、余剰貯蔵食糧を持ち寄って近隣の村と共同で盛大な祭を行ったのではないかという説があります。つまり超古代の社会は、今風にいうと食料の単年度決算だったという事でしょう。

 

 科学的な知見の無い縄文時代を生き抜くためには、近隣の村と協力し助け合い、大自然の神々に願いを伝えて感謝をせねばならなかったのでしょう。

 

 そして遅くとも今から3~4000年前の縄文土器からは、酒を造っていた可能性が発見されています。それは山ぶどうなどで造った果実酒ですが、神祭りには欠かせないものだったのではなかったでしょうか?アルコールが体に与える不可思議な影響を人々は楽しんで、非日常の世界に精神を浮遊させたのではないでしょうか。

 

 拠点集落では近隣の村々から人を集めるために、その準備に追われたはずです。

A君は祭りに招待する村々に連絡をしなさい。

B君は参加する人数を確認しなさい。

C君はそのお客様方の寝床を用意しなさい。

D君は祭りに供出する貯蔵食糧を確認しなさい。

E君は祭りの日までに酒をおいしく造りなさい。

Fさんたちは食器や酒器になる土器を作りなさい。

などのように現代の宴会幹事以上に、十分な準備が必要だったでしょうね。

 

 この村人に決められた期日に間に合うように準備を差配するのは、一種の政治といえるでしょう。

後の時代には「政」の漢字の成り立ちから、これが「政(まつりごと)=祭り事」の語源だという人もいます。この縄文時代の祭りはとても賑やかな大宴会だったような印象です。

わが家の縄文ガチャ土偶たち(笑)
縄文人も酒壺を囲んで祭りをしたのだろう。
撮影:柏木宏之

 さらに祭りは若い男女の出会いの場だったことが考えられます。

祭りの場で知り合った若い男女が、やがて子孫を繁栄させることも当時の重要な目的だったはずです。

 

 弥生時代も同じでその風景は一切見ることができませんが、この時代になると神々に供物を捧げ、荘厳な儀式をしたようです。銅鐸の清らかに響く音、飾られた銅剣銅矛の煌びやかに輝く祭場、そして鹿や猪の供物と酒が祭壇に並んだのでしょう。その後、銅鏡による儀式に変わったようですが、祭りのコンセプトは同じだったでしょう。

 

 弥生時代は環濠集落に守られる環境からみて、近隣の邑国(ゆうこく=集落国家)と合同で祭りをしたかどうかはわかりませんが、この時代には米があるので果実酒から米酒に変わっていると思われます。

いったいどんなお酒を造っていたのかは後日に譲りますが、倭人は酒を好んだようです。

秋祭り直前の神社は飾り付けができている
夏祭りは疫病退散を願い、秋祭りは豊穣を神に感謝することが多い。
撮影:柏木宏之

 古代中国の『三国志』の中のいわゆる『魏志倭人伝』には「倭人は酒をたしなむ」と書かれていますし、「葬送の時には喪主家族は喪に服して慟哭し続け、来客は歌舞飲酒をする」とリポートされています。

 

 稲作が中心になった弥生時代の祭りは、おそらく種まきの春と収穫を終えた秋に特に盛大に催されたのでしょう。そしてその差配はまさに王が執り行った「政(まつりごと)」だったのでしょう。

 

 「祭政分離」の今日、カレンダーでも「祭日」は無くなり「祝日」と言い換えられています。

しかし現代の私たちの生活に寄り添うように「祭り」は多く存在します。そして祭りと宴会のセットは今も続いていますし、そこには必ず「酒」が登場します。この「お酒」についても考えてみたくなりますね。秋祭りが各地で行われるこの季節になると、ふとこんなことを想います。

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柏木 宏之(かしわぎ ひろゆき)
柏木 宏之かしわぎ ひろゆき

1958年生まれ。関西外国語大学スペイン語学科卒業。1983年から2023年まで放送アナウンサー、ニュース、演芸、バラエティ、情報、ワイドショー、ラジオパーソナリティ、歴史番組を数多く担当。現在はフリーアナウンサーと同時に武庫川学院文学部非常勤講師を務め、社会人歴史研究会「まほろば総研」を主宰。2010年、奈良大学通信教育部文化財歴史学科卒業学芸員資格取得。専門分野は古代史。歴史物語を執筆中。

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