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男女ともに多淫である人を「湿深(しつぶか)」という【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語93


我々が普段使っている言葉は時代とともに変化している。性に関する言葉も今と昔では違う。ここでは江戸時代に使われてた性語を紹介していく。


 

■湿深(しつぶか)

 

 房事にしつこいこと。好色なこと。

 男女ともに用いる。

 図は、「婬婦之相(すけべゐのさう)」とあり、湿深な女の人相である。

【図】湿深な女の人相。『艶道智恵海』(不明)、国際日本文化研究センター蔵

①春本『笑本春の曙』(北尾重政、安永元年)

 

 女が庭掃除をしていると、男が背後から迫り、上体を倒させて、後ろから挿入してきた。

 

「おや、誰だと思ったら、この人は、おえねえ湿深な」

 

 女は男を湿深と評しているが、とくに嫌がっているわけではなさそうだ。

 

 

②春本『会本和良怡副女』(勝川春潮、天明8年)

 

 若い男と女が春本を読んでいる。

 

男「これから娘と会うところさ。あんまり湿深な文句だ」

女「その本をあんまり読んだら、いっそおかしな気になった」

 

 女は春本で興奮したようだ。男にとっては願ってもない状況であろう。

 

 

③春本『欠題上方艶本』(月岡雪山か)

 

 新五三(しんござ)とは新五三衛門の略で、参勤交代で江戸に出てきた諸藩の藩士のこと。吉原などの遊里では、田舎武士を新五三と呼んで馬鹿にした。

 

 湿深新五三、我が買い切りの女と思い、出事(でごと)、昼七たび、なお、尻(けつ)まで取って、穴まで帰る。

 

 湿深な新五三は女郎買いをすると、金を払った以上、たくさんしなければ損だとばかり、7回するどころか、肛門性交までしたがる、と。

 助平で貪欲な田舎武士を揶揄している。

 

 

④春本『艶色吾妻鑑』(不明、寛政元年頃)

 

 いったん与四郎に体を許してからは、後家は夢中になってしまった。

 

 かくて後家御はいくたびとなく、与四郎方へ来りて、うるさきほどに湿深なり。

 

 後家は与四郎に何度も性行為を求めたのである。

 

 

⑤春本『春情妓談水揚帳』(歌川国貞、天保7年)

 

 男が女の股に手を入れてきた。

 

女「わたしは、ぜんてえ、湿深だから、ちょっと会ったくらいでは、物思いで、結句、悪いよ。どこぞで、堪能するほどに」

男「何にも言っていられねえ。拝む、拝む」

 

 男がはやっているのに対し、女は場所を変えて、ゆっくり堪能させてくれと、うそぶいている。自分は好色だと、女は公言しているほどだ。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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