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トランプ大統領の中東歴訪でアメリカはどうなる? 巨額の経済協力と安全保障における成果と課題

 20255月、トランプ米大統領は第2次政権発足後初の本格的な外遊として、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問した。この歴訪は、経済協力の強化と地域の安全保障課題への対応を目的とし、巨額の投資や武器売却合意を通じて米国経済への利益を強調する一方、ガザ地区の紛争やイラン核問題、シリア情勢なども議論された。ここでは、特にサウジアラビア訪問の成果を中心に、2017年の初外遊との比較を交え、その意義と課題を整理する。

 

■サウジアラビア訪問の成果

 

 2025513日、トランプ大統領はサウジアラビアの首都リヤドに到着し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談した。最大の成果は、6000億ドル規模の対米投資協定の締結である。この投資は、AIデータセンター、医療研究、軍事研究、エネルギー、インフラなどの分野を対象とし、米国企業とのパートナーシップ強化を目指す。また、1420億ドルの武器売却合意が結ばれ、米国製中距離空対空ミサイルを含む防衛装備の供与が含まれる。さらに、トランプ氏はシリアに対する経済制裁の解除を発表し、シリア新政権の経済再建と地域安定を支援する方針を示した。サウジ・米国投資フォーラムには、テスラCEOのイーロン・マスク氏やオープンAIのサム・アルトマン氏など米国の主要企業幹部が参加し、民間セクターの関与も顕著であった。

 

■2017年訪問との比較

 

 トランプ氏は2017年の第1次政権初外遊でもサウジアラビアを訪問し、約1100億ドルの武器売却と約4000億ドルのビジネス取引を合意した。2025年の訪問は投資規模が6000億ドルに拡大し、経済的成果がより大きい。しかし、2017年当時はサウジの石油収入が潤沢だったのに対し、2025年はビジョン2030に伴う巨額の資金需要により、財政的余力が限られているとの指摘がある。トランプ氏が期待する1兆ドル規模の投資は、サウジの財政状況を考慮すると実現が難しい可能性がある。

 

■課題と限界

 

 サウジアラビアとの経済協力は成果を上げたが、いくつかの課題が存在する。第一に、サウジの財政状況である。ビジョン2030の推進には巨額の資金が必要であり、原油価格の下落や国内支出の増大により、対外投資の余力が減少している可能性がある。第二に、地政学的課題である。ガザ地区の紛争では、イスラエルとハマスの戦闘が続き、トランプ政権はイスラエルとサウジアラビアとの国交正常化(アブラハム合意の拡大)を模索するが、サウジアラビアはパレスチナ国家樹立の進展を条件としており、進展は限定的である。第三に、シリア制裁解除に伴うリスクである。制裁解除はシリアの再建を支援するが、国内の不安定な情勢やロシア・イランとの関係が複雑化する可能性がある。

 

■地域全体への影響

 

 サウジアラビアに続き、カタールでは最大210機、960億ドルのボーイング機売却を含む2430億ドルの経済協定が結ばれ、UAEではAIやエネルギー分野で2000億ドル超の投資協定が署名された。これらの成果は、湾岸産油国の資金力を活用し、米国経済を強化するトランプ氏の戦略を体現する。しかし、ガザ問題やイラン核協議での進展が乏しい中、経済偏重の外交が中東の安全保障課題を解決するかは不透明である。特に、サウジがロシアとウクライナの停戦交渉の場を提供する可能性が注目されるが、具体的な成果は未確定である。

 

 トランプ大統領の2025年中東歴訪は、経済面での成果を強く打ち出し、特にサウジアラビアとの6000億ドルの投資協定やシリア制裁解除は、米国経済への貢献をアピールする重要な成果である。しかし、サウジの財政制約やガザ・イラン問題の複雑さは、経済偏重の外交の限界を示す。2017年の訪問と比べ、投資規模は拡大したが、地政学的課題への対応は依然として課題が残る。今後、トランプ政権が経済的利益と安全保障政策のバランスをどう取るかが、中東政策の成否を左右するだろう。

イラストAC

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プロバンスぷろばんす

これまで世界50カ国ほどを訪問、政治や経済について分析記事を執筆する。特に米国や欧州の政治経済に詳しく、現地情報なども交えて執筆、講演などを行う。

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