田沼意次の栄光と落日を象徴する「相良城」
蔦重をめぐる人物とキーワード⑰
5月4日(日)放送の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第17回「乱れ咲き往来の桜」では、蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう/通称・蔦重/横浜流星)の本屋「耕書堂」が、市中の地本問屋を脅かすほど急成長を遂げる様が描かれた。一方、田沼意次(たぬまおきつぐ/渡辺謙)は、平賀源内(ひらがげんない/安田顕)と目指した国づくりに対する情熱を再確認するのだった。
■国を豊かにするために奔走する蔦重と田沼意次

相良小学校の校門脇に残る相良城の土塁の一部(静岡県牧之原市)。相良城二の丸の松として地元の人々に親しまれている。また、本丸跡には牧之原市史料館が建っており、城や田沼意次にまつわる資料を展示している。
1780年(安永9年)、蔦重が営む書肆(しょし)・耕書堂(こうしょどう)は、話題作を次々と世に送り出し、吉原にかつてないほどの賑わいをもたらしていた。江戸市中では手に入りにくい人気の書籍を出版したことで、耕書堂には遠方からも多くの人々が詰めかけていたのである。
一方、将軍・徳川家治(とくがわいえはる/眞島秀和)の世継ぎ問題に頭を悩ませていた老中・田沼意次は、家治に対し、世継ぎをもうけるよう進言する。渋る家治であったが、意次が引き合わせた女性・鶴子(川添野愛)の姿に驚愕する。彼女は、亡くなった御台所(みだいどころ)に瓜二つだったのだ。
その頃、蔦重は新刊の出版に困難を抱え始めていた。江戸市中の地本問屋から圧力がかかり、彫師たちが耕書堂からの仕事を受けづらくなっていたからだ。
勢いを削がれ、思案に暮れていた蔦重は、かつて吉原の遊女・うつせみ(小野花梨)と足抜けした浪人・小田新之助(井之脇海)と再会する。新之助との語らいの中で、蔦重は子ども向けの手習い本である「往来物(おうらいもの)」に商機を見出す。
「往来物」であれば、既存の地本問屋の流通網に頼らずとも全国に展開できる。蔦重は、江戸の制約を離れ、地方の有力者たちの協力を得て独自の出版ルートを構築しようと動き出す。目論見通り、完成した往来物は地方で飛ぶように売れ、耕書堂の出版戦略は新たな局面を迎えた。
蔦重の快進撃に危機感を募らせた江戸市中の地本問屋たちは、耕書堂に対する締め付けをさらに強化することを画策する。
一方、意次は、落成した居城を視察すべく、自領・相良(さがら)へ向かった。そこには、盟友・平賀源内とともに設計した理想の城下町が広がっており、町は意次の構想どおりに豊かに繁栄していた。
相良の地を目の当たりにし、意次の胸には、日の本の津々浦々、庶民すべてを豊かにしたいという野望が再び燃え上がる。意次はその理想を実現すべく、幕閣の人事刷新に着手し、自派の人材を要職に据えるべく本格的な動きを見せ始めた。
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