江戸のメディアとして流行を伝えた「錦絵」
蔦重をめぐる人物とキーワード⑩
3月9日(日)放送の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第10回「『青楼美人』の見る夢は」では、瀬川(小芝風花)による最後の花魁道中が行なわれる様子が描かれた。幼馴染であり、互いに想い合う関係でもある蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう/通称・蔦重/横浜流星)は、瀬川が吉原で過ごす最後の日に、彼女の喜ぶ姿を見るべく奔走するのだった。
■温かく見守られながら瀬川が吉原を去る

『青楼美人合姿鏡』に描かれた花魁(国立国会図書館蔵)。当時人気だった絵師・北尾重政と勝川春章が画工を務め、吉原の遊女たちの何気ない日常を描いた。詩を詠んだり、芸事を学んだりする様子から、遊女たちの深い教養がうかがえる。江戸の風俗を伝える重要な資料としても評価が高い。
市中の本屋と対立した吉原の主人たちは、吉原の案内本である『吉原細見(よしわらさいけん)』や、女郎絵を売る手筈を思案していた。身請けされた瀬川との別れが近づく蔦重は、勢いづく吉原の主人たちとは対照的にふさぎこんでいた。
市中では、蔦重の作った細見を売り出さないよう手が回されているばかりか、吉原の中でも市中の本屋との手切れに反対する連中が密かに取引を継続するなど混乱が続いている。再び吉原から人が去ることを懸念する蔦重は、平賀源内(ひらがげんない/安田顕)や書物問屋の須原屋市兵衛(すはらやいちべえ/里見浩太朗)に相談を持ちかけた。
源内の「やりたいことをやればいい」との一言で、蔦重は将軍に吉原の女郎絵を献上するという妙案を思いつく。奇策ではあるが、抜かりない蔦重の計画に、吉原の主人たちもすっかり乗り気となり、瀬川の最後の花魁道中で本を売り出すことに決まった。
こうして、流行の絵師・北尾重政(きたおしげまさ/橋本淳)と勝川春章(かつかわしゅんしょう/前野朋哉)による豪華な錦絵本『青楼美人合姿鏡』が出来上がった。蔦重らはさっそく源内を通じて老中・田沼意次(たぬまおきつぐ/渡辺謙)に本を持参。意次は約束通り、将軍・徳川家治(とくがわいえはる/眞島秀和)のもとに献上したが、政敵・田安賢丸(たやすまさまる/寺田心)による陰謀を知らされ、意次の心中は本どころではなくなっていた。
そんななか、瀬川は蔦重の「吉原を楽しいことばかりの場所にしたい」という夢を胸に刻みつけ、吉原に別れを告げたのだった。
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