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【光る君へ】修羅場!「どういうお仲なの?」問い詰めた赤染衛門も浮気されたことがあった

日本史あやしい話


NHK大河ドラマ『光る君へ』9月22日放送の第36回「待ち望まれた日」では、まひろ/紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)と“あうんの呼吸”で歌をやりとりし、周囲をざわつかせてしまう。道長の妻・倫子(黒木華)は席を立ち、赤染衛門(凰稀かなめ)は「どういうお仲なの?」とまひろを問い詰めるという“修羅場”が描かれた。さて、じつは赤染衛門自身、“浮気”が他人事ではない経歴である。今回は彼女の人物像に迫ってみる。


 

■歌の威力で息子の命を救い、官職も与えた

 

[百人一首繪抄]「五十九番」「赤染衛門」 より(東京都立図書館)

 

「代はらむと 祈る命は をしからで さてもわかれむことぞ悲しき」

(「代わって死んであげたい」と祈る私の命は惜しくはないが、別れることになるのは悲しい)

 

 和泉式部と並び称された平安時代の女流歌人・赤染衛門が詠んだ和歌である。ひとり息子が重病となって死に瀕した際に詠んだ歌だという。

 

「病の原因は住吉大社の祟りではないか」と耳にした赤染衛門が、御幣の玉串に意を込めてこう書き記し、病平癒を祈りながら住吉明神に奉納したのだとか。

 

 その思いが本当に明神に通じたのかどうか定かではないが、その後息子の病が回復したところから、「赤染衛門の歌に霊力あり」と噂されたようである。

 

■道長に感銘を与えた歌も

 

 赤染衛門といえば、かの紫式部とともに、藤原道長の長女・彰子に女房として仕えた女性である。彰子に仕える前には、彰子の母・倫子にも仕えていたが、その頃にも、彼女が詠んだ和歌が効力を発揮したことがあった。

 

「思え君 かしらの雪を 打ち払い 消えぬ先にと 急ぐ心を」

 

 この歌を倫子を通じて道長に詠んでもらい、これまた感銘を与えたという。意味としては「我が君よ、私の白髪の頭に降りかかる雪を払って消えかけようとするかのような残り少ない命のある間に、我が子に官職を得てほしいとの親心をお酌み取りください」で、子の栄達を願う母の思いを切々と歌い上げたのである。

 

 これも道長に通じたようで、哀れに思った道長が、息子・挙周を和泉守に就任させたというから、ここでもまた、彼女の歌が効果を発揮したようだ。

 

■夫の浮気にも威力を発揮

 

 彼女の歌が威力を発揮したのは、それだけではなかった。もう一つ、夫である大江匡衡の浮気にも効果的だった。

 

 夫が伏見稲荷の禰宜の娘と懇ろとなって、赤染衛門の元に通う事もなくなってしまったことに憤慨。なんと、二人の密会現場にまで自らが認めた和歌を送りつけたというから大胆である。

 

「我が松の 松はしるしも 無かりけり 杉むらならば 尋ねきなまし」

 

 こちらも筆者なりに読み解いてみれば、「どうやら、私の家の松にはあなたを惹きつける魅力はないようですね。女のいる稲荷の社の杉の方へはいそいそと尋ねていらっしゃるのに」といった具合か。なんとも皮肉めいた、嫌味ったらしい歌である。

 

 しかし、効果はてきめん。夫・匡衡も、さすがにお忍びの現場にまで送られては立つ瀬もなくなったからか、以降女の元には通うこともなくなったのだとか。少々度が過ぎているのではと思わないでもないが、夫を心底慕う、健気な様子までもが感じられそうなエピソードというべきか。

 

 前述の我が子の無事や栄達を願う母親ならではの思いがこもった歌とともに、赤染衛門の人柄をしのぶのに相応しい作である。家族を思う慈愛の心が霊力を帯びて、明神や人々をも動かしたと多くの人が見なしたというのも、理解できるような気がするのだ。

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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