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朝ドラ『虎に翼』穂高重親はなぜ寅子に拒絶されたのか? 2人の約20年にわたる言動とすれ違いを辿る

朝ドラ『虎に翼』外伝no.47


NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』第13週「女房百日、馬二十日?」が放送中。寅子(演:伊藤沙莉)は、恩師である穂高重親(演:小林 薫)の退任記念祝賀会で花束を贈呈することになるが、穂高の退任の言葉を聞いてその場を去り、穂高に対して怒りを露わにする。「感謝はしているけれど、許さない」とまで口にした寅子は、なぜそこまで穂高を拒絶するのか。初対面から約20年の2人の言動とすれ違いを辿る。


 

■穂高教授と寅子の20年を振り返る

 

 穂高と寅子の出会いは昭和6年(1931)まで遡る。女学校最終学年だった寅子が、書生の佐田優三(演:仲野太賀)が学ぶ明律大学夜間部を訪ねていったのがきっかけだった。「婚姻状態にある女性は無能力者」という内容に対して憤慨した寅子に「言いたいことがあるなら言いたまえ」と促したのが始まりだ。ちなみに、桂場等一郎(演:松山ケンイチ)と初めて対面したのもこのタイミングである。つまり桂場は約20年にわたって穂高と寅子を見てきたことになる。

 

 穂高は寅子に「君は法律家に向いている」と言い、「まもなく女性も弁護士になれる時期がくる。君のような優秀な女性が学ぶのにふさわしい場所だ」と、明律大学女子部法科への道を示した。その後、穂高が寅子の父・猪爪直言(演:岡部たかし)の大学時代の恩師であったという縁も明かされている。

 

 昭和11年(1936)に始まった「共亜事件」の公判では、直言の弁護を引き受け、寅子たちを鼓舞して強大な権力と闘った。そして、女子部から高等試験司法科の合格者が出なかったことで存続の危機にさらされた時も、学生らの肩をもっていた。

 

 昭和15年(1940)に寅子が優三と結婚し、2人が穂高に挨拶した際にも大層な喜びようだった。しかし、この後寅子との関係に亀裂が入ってしまう。発端は、寅子が妊娠を勤め先である雲野法律事務所に言い出せないまま明律大学の講演会前に倒れてしまったことだ。

 

 穂高は寅子の身を案じて「ここまで十分君は頑張った。よく耐えたよ」と労った。「ここで私が立ち止まったら、婦人が法曹界に携わる道が途絶えるんです。だから出産ギリギリまで働いて、産後も可能な限り早く復帰して法廷に立ちたいんです」と反論した寅子に対し、「『雨垂れ石を穿つ』だよ、佐田くん。君の犠牲は決して無駄にはならない。今は一度立ち止まろう」と説く。今日の放送まで続く「雨垂れ石を穿つ」の言葉はここに始まった。

 

 寅子は憤る。「つまり先生は、私には石を砕けない、雨垂れの一粒でしかないとお考えなのですか? それがわかっていて私を女子部に誘ったのですか?」と問いかけた。そして穂高の「君の次の世代がきっと活躍する」という言葉に対し「私は今、『私の話』をしているんです!」と激昂した。

 

 そして、後日雲野法律事務所に詫びに訪れた穂高が山田よね(演:土居志央梨)を含む面々に寅子の懐妊を話してしまい、その場で「一度休んで子育てに専念してはどうか。弁護士の資格はあるのだから、復帰はできる」と口にしたことが寅子の心を折ったのである。次に2人が再会するのは、5年後の昭和22年(1947)のことになる。

 

 民法改正の話し合いの合間にも、ひと悶着あった。穂高は「この道に君を引きずり込んで不幸にしたのは私だ……。ずっと責任を感じていてね」と、寅子に家庭教師の職を見つけてきたと言うのだ。無理に生きづらい法曹界にいなくてもいいという穂高に、寅子は「私は法律が好きで、この仕事が好きでここにいるんです」と反論。その場でも決裂してしまう。

 

 すれ違い続けた2人のこれまでがあって、穂高の退任記念祝賀会に繋がる。桂場が寅子に花束贈呈の役を任せたのは、「このままで終わっていいはずがない」と、お互いを思ってのことだろう。何しろ桂場こそが、穂高と寅子が出会ってから約20年もの長い間2人を見てきた唯一の人物だからだ。

 

 寅子は穂高を糾弾するが、穂高も長年司法や教育の場の最前線で戦い続けてきた1人だ。しかも、女子教育や女性の社会進出、とくに法曹界への進出という前例のない課題に向き合い続けてきた。自身のことさえも「雨垂れの一滴」と表したように、彼にも自分の無力さを嘆いたり、日本の現状に失望する場面が数えきれないほどあっただろう。彼の想いが寅子に伝わって和解することはできるのだろうか。

※一部編集部にて作成

<参考>

■NHKドラマ・ガイド『虎に翼』(NHK出版)
■『NHK連続テレビ小説 虎に翼 上』(NHK出版)

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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