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「風呂キャンセル界隈」は、入浴しなくても臭くない中世ヨーロッパ庶民を参考にすべき!? ポイントは「下着」

中世イングランドの暮らし


SNSでもトレンド入りして話題になっている「風呂キャンセル界隈」。これは、「風呂に入りたくない人たち」を指すネットスラングだが、歴史的に見ると、かつて入浴というのは庶民にとって贅沢すぎる習慣だった。しかし、イギリスの歴史家ルース・グッドマンの検証実験によると、当時の庶民のニオイはそこまでひどいものではなかったのだという。どういうことだろうか?


 

■清潔は「贅沢」だった中世

 

風呂に入らない「風呂キャンセル界隈」が話題になっている

 あまり清潔だったという印象がない中世ヨーロッパのくらし。しかし、中世のイングランドにはすでに入浴習慣をもっている人々がいました。

 

 13世紀の英国王ヘンリー3世は、イギリスの歴史で最初にタイル張りの浴室を作らせた人物として知られますが、彼の召使いたちは入浴準備のためにバケツで沸かした湯を運び、国王の入浴が終わると汚れた湯をバスタブから汲み取って、外に捨てにいっていたようです。

 

 上下水道が完備されていなかった当時、「清潔な暮らし」とは「贅沢な暮らし」と同義だったのです。つまり、中世ヨーロッパにおいても上流階級はまるで現代人のように清潔な日々を楽しめていましたが、庶民は石鹸ですら高価だったがゆえに、なかなか使えません。

 

 このような理由から、定期的な入浴や洗髪といった習慣はごく一部の上流階級にしか根付いていませんでした。当時、庶民に生まれるということは、一生「風呂キャンセル」して暮らさねばならないことを意味していたのです。

 

■ニオイを抑える秘訣は「パンツ」

 

「風呂キャンセル」を運命づけられた庶民たちの衛生意識はどんなものだったでしょうか。彼らも手と顔だけは頻繁に水で洗い、一週間に一度ほど、リネン製品の下着や羊毛製の靴下を取り替えていましたが、本当にそれだけだったようです。

 

 しかし、現代イギリスの歴史家ルース・グッドマンの検証実験によると、その程度の衛生習慣しかなくても、近くに寄った時に暖炉の薪に火を付けた時のようなニオイがするだけで、悪臭・異臭の類を漂わせることはなかったそうです。

 

 逆に毎日シャワーを浴びていても、ろくに下着を替えていない人からは悪臭が発するらしいので、この歴史的知識は現代日本の「選択的風呂キャンセル」界隈の方々の参考となるでしょうか。まぁ、気温も湿度の低いヨーロッパの「ライフハック」が、高温多湿の日本の夏にも有効かどうかは保証できませんが……

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過去記事

堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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