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朝ドラ『虎に翼』物語の裏側で近づく戦争の足音 帝国弁護士会が政府に軍拡を迫っていた!?

朝ドラ『虎に翼』外伝⑮


NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』第6週「女の一念、岩をも通す」がスタートした。時は昭和12年(1937)、主人公・猪爪寅子(演:伊藤沙莉)らは明律大学法学部の最終学年に進級し、遂に高等試験を受けることとなる。試験もさることながら、日本は日中戦争開戦という局面にあった。今後の運命を左右する当時の時代背景を簡単にまとめる。


■国際社会に背を向けて孤立を深めた日本 

 

 時を少し遡り、昭和6年(1931)の満州事変と翌年の満州国建国で日本は国際社会から非難された。そして昭和8年(1933)、国際連盟が派遣したリットン調査団の調査結果が提示され、「中国の主権を守り、日本軍は満洲から撤退すべし」とする決議文が出されると、日本は国際連盟を脱退するのである。

 

 国際社会での孤立を深めた日本は、昭和11年(1936)11月に「日独防共協定」を結ぶ。さらに翌年にはこれにイタリアが加わり「日独伊防共協定」が締結された。ここに、後の太平洋戦争にまで至る対立構造が構築されていくのである。

 

 この背景には、昭和恐慌を経て長引く不況への打開策を見いだせなかった政府への不信、そして政財界の不祥事等に失望した国民らが、「より強いリーダー」を求めて軍部主導の政治を声高に叫ぶようになり、平行してドイツやイタリアへの一種の羨望を高めていったことも影響していた。

 

 さて、法曹界も戦争への道筋でまったく他人事だったわけではない。帝人事件(ドラマ内では「共亜事件」とアレンジされている)によって時の斎藤内閣が総辞職したのとほぼ時を同じくして、帝国弁護士会は第1次世界大戦後に結ばれたワシントン海軍軍縮条約の廃止を求める声明を発表。政府に条約を破棄させ、軍拡への道を決定づけた。

 

 また、小山松吉司法大臣は、『ナチスの刑法』『ナチスの法制及び立件綱要』など、ナチス主義者の翻訳論文を司法省から刊行している。

 

 そして、物語でも触れられたように、昭和12年7月、盧溝橋事件を皮切りに遂に日中戦争が勃発する。ただし、両国は経済制裁を恐れて太平洋戦争開戦まで互いに宣戦布告を行わなかったため、当初は「支那事変」と呼称されていた。この戦争は泥沼化する上、2年後の昭和14年(1939)には第二次世界大戦が始まる。いよいよ戦争の足音が近づくなか、寅子たちが激動の時代をどのように生き抜いていくのか、果たして同期たちは今後弁護士になれるのか、これからの展開に注目したい。

日本人によって撮影された盧溝橋(別名マルコ・ポーロ橋)。1937年7月7日、日本軍と中国国民革命軍第29軍が衝突。一旦は和平交渉が行われたが、この事件を発端に全面戦争に入った。

<参考>

■NHKドラマ・ガイド『虎に翼』(NHK出版)

■『歴史人』2023年9月号「太平洋戦争開戦の決断」
■筒井清忠編『昭和史研究の最前線─大衆・軍部・マスコミ、戦争への道─』(朝日新聞出版)

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