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疫病退散を願ってもてはやされたアマビエ、そのブームの仕掛け人とは?

鬼滅の戦史㊻


天然痘や麻疹、コレラなど、江戸時代の人々も、様々な疫病に苦しめられていたようである。それら疫病退散にご利益があるともてはやされたのが、疱瘡(ほうそう)絵や麻疹(はしか)絵といった摺物であった。ここで紹介するアマビエなる奇妙な予言獣を描いた摺物も、疫病を恐れる人々の間で、お守りとしてもてはやされたに違いない。しかし、この摺物を売らんとするために不安を煽り立てたのは、マスメディアではなかったか? いわば、マスメディアが作り上げた妖怪だったともいえるのだ。


奇妙な姿が、疫病退散に一役?

肥後国海中の怪(アマビエ/アマビヱ)『新聞文庫』江戸時代の弘化3年(1846)5月刊行 京都大学附属図書館蔵

 いつ果てるとも知れぬ、新型コロナウィルス感染症の蔓延。

 

 収束したかと思えば、またもやぶり返してくる感染の嵐。

 

 2年近くも苦しめられ続けた、この憎っくき感染症に、どのように対処すべきなのか解らぬまま、試行錯誤を繰り返してきた…というのが実情だろう。為す術なしとなれば、後は神頼み。昨年の感染当初には、アマビエなる怪しげな予言獣あるいは妖怪にすがるという、奇妙な現象が起きたことを覚えておられる方も多いだろう。とある人物がTwitterに疫病退散にご利益があるからと、「アマビエのイラストをみんなで書こう」と投稿したことをきっかけとして人気爆発。商品化までされてもてはやされたものであった。

 

 いうまでもなくアマビエとは、豊凶と疫病の流行を予言するという妖怪。もちろん、実在するとはとても思い難いが、藁をもすがる思いで、願を掛けた人も少なくなかったに違いない。

 

 そもそも、江戸時代のかわら版に登場したのが始まりで、その文面が意味深であった。「肥後国の海中において、夜毎光る奇妙なものが出現したため、役人が派遣された」との書き出しで始まる。その「奇妙なもの」に気を引かれて読み進めていけば、「アマビエ」と自称するものが現れ、「当年より6ヶ年の間豊作が続くものの、疫病が蔓延する」と言って海の中に帰っていったという。こりゃあ大変と思いながらさらに読み進めていけば、「私の姿を書き写した絵を人々に見せろ」と締めくくるのだ。まるで私の姿絵を見れば、疫病から免れるとでも言いたげな文面なのである。

 

予言獣の一大ブームを作り上げたものとは?

 

 このアマビエ、弘化3(1846)年に刊行された摺物(すりもの)を見ると、文字だけでなく、奇妙な絵姿が描かれている。口が鳥のくちばしのように尖っているのが特徴的で、髪の毛が異常に長く、先が3つに割れた足3本、さらには、胴体に鱗を持つという、鳥か魚か人間か判断つきかねる異様さである。ひと目見ただけで、目に焼き付いて離れそうもない、実に印象的な姿なのだ。一見、子供の落書きのようにも見えるが、そのインパクトの強さは半端ではなかった。この異様さこそが、効果てきめんとの錯覚を呼び起こしたのかもしれない。

 

 そういえば、アマビエ同様、疫病除けのお札に記されたアマビコ(天彦、尼彦、天日子尊、天彦、海彦ほか)や天彦入道(あまひこにゅうどう)、山童(やまわろ)、アリエなどの妖怪は、いずれも、奇妙さにかけてはどれも負けていない。猿の顔を持つ尼彦など、全身が剛毛に覆われた激太りであるし、中には顔と3本足が直接繋がった異常な姿絵もある。体は鳥で顔は強面の武人かと思えるような天彦入道や、人間の顔を持つ羊のような天日子尊までいたりと、いずれも奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)。一種のこけ脅しではあるものの、疫病退治にはこのおぞましさがよく効くのだ!と言わんばかりの異様さなのだ。

 

 ちなみに、アマビエは「当年より6年間豊作が続く」と明言したが、天日子尊は「これより7年間凶作が続く」と大きく異なる他、疫病が蔓延した後、尼彦が六歩通り死に絶えるというのに対して、海彦は七歩通り、天日子尊は半分死に絶えると、予測する死者の割合も微妙に異なっている。共通しているのは、いずれも「私の姿絵を見よ」というもので、当然のことながら、これら妖怪の姿を描いた摺物を手にするよう教え諭すのだ。

 

 なにやら程の良い押し売りと受け止められそうなお話だ。現代の新聞や雑誌に該当する「かわら版」に掲載され、飛ぶように売れたことは想像に難くない。これらの妖怪が疫病除けに効ありとしてその名が広まったのは、かわら版という摺物があったからこそだろう。天然痘(てんねんとう)除けとして源為朝が描かれた疱瘡絵や、麻疹除けとして鍾馗(しょうき)が描かれた麻疹絵などが大流行りしたように、このアマビエの姿絵もまた、摺物そのものがお守りとしての役割を兼ねることになっていったのだろう。

 

 つまるところ、この予言獣の一大ブームは、マスメディアが作り上げたものといえるのではないか? マスメディアが疫病の恐ろしさを煽り、その難から逃れるために、自らが刷り上げた摺物や錦絵をお守りとして身につけておいたほうが良いと言い囃(はや)したその結果、人々がこぞって摺物の入手に奔走し、それがまたもや人々の不安を煽り立てるという悪循環に陥ってしまったに違いない!と、そんな気がしてならないのだ。

 

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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