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生きたまま大ワシに肝臓を食われたプロメテウス 蘇生と地獄の苦しみを繰り返し続ける罰

ギリシア神話の世界


 

 ティターン神族の中にもゼウスに加担した神々がいた。プロメテウスはその神々の1柱である。

 

 けれども、プロメテウスはゼウスに忠実でもなければ従順でもなく、あくまでも自分の良心に従って行動した。たとえば、ゼウスが神と人間の区別を明確にし、犠牲獣の分け前まで別にしようとした時、プロメテウスは肉の赤身と内臓を見栄えの悪い胃袋で包んだものと、骨のまわりに厚い脂肪でくるみ見栄えをよくしたものを並べ、ゼウスに好きな方は選ばせた。

 

 ゼウスはまんまと罠にはまり、後者を選んでしまうが、中身が骨だけとわかっても、自分が選んで手前、プロメテウスに報復するわけにはいかず、代わりとして人間から火を奪い取った。

 

 火がなければ猛獣を怯ませることも暖を取ることもできず、食べられるものも限られる。これでは人間が滅びかねないため、プロメテウスは天上界から火を盗み出し、人間に再び火を与えた。

 

 今回ばかりはプロメテウスに言い逃れの道はなく、ゼウスはプロメテウスを捕らえさせると、カフカス山(コーカサス山脈)の大岩に鎖で縛りつけ、巨大なワシの餌とした。

 

 餌と言っても、そのワシが食らうのはプロメテウスの肝臓だけ。鋭い嘴で皮膚ごと肉をえぐり取ってから、肝臓をついばむのである。

 

 プロメテウスも不死の存在だが、痛みは感じる。皮膚をえぐられ、肝臓をついばまれる時の激痛は想像するに余りある。しかも、彼の肝臓とそこに至る皮膚・肉も夜間に再生するため、あくる日もそのまたあくる日も同じ責め苦が繰り返される。慣れや耐性のつく痛みではないため、プロメテウスはのちに半神の英雄ヘラクレスにより解放されるまでの3万年間、この残酷な刑罰を甘んじて受けねばならなかった。

 

 ただし、この神話には複数の異伝がある。その中の1つは、ゼウスに関する不吉な予言を教えることを交換条件として、拘束を解かれたとする伝承で、その予言とは、「海の女神テティスがゼウスの子を生めば、その子は父を超える存在になる」というもの。ゼウスもまた祖父ウラノス、父クロノスと同じ運命を免れないとするも内容だった。

 

 この伝承についても、プロメテウスはこれにより解放されたとするものと、プロメテウスは予言の存在をちらつかせながら、あえてゼウスに教えなかったという2通りの話があり、それまでの経緯からすると、後者の方が自然だろか。

 

 ちなみに、海の女神テティスはのちに人間の男性と結ばれ、アキレウスという男子をもうける。ギリシア世界を二分したトロイア戦争の、一方の主役と呼べる英雄である。

ニューヨークのプロメテウス黄金像/写真AC

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島崎 晋しまざき すすむ

1963年東京生まれ。立教大学文学部史学科卒業。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て、現在、歴史作家として幅広く活躍中。主な著書に『歴史を操った魔性の女たち』(廣済堂出版)、『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』(日本文芸社)、『仕事に効く! 繰り返す世界史』(総合法令出版)、『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『覇権の歴史を見れば、世界がわかる』(ウェッジ)など多数。

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