大人になっても役立つ「小学生の自由研究」:戦国時代編② 研究の中身を決める方法と理論武装を教えます
◼️自分なりの研究テーマの立て方
先週の初回記事で、夏休みの小学生の自由研究のテーマのポイントは「対比」だと書きました。
たとえば……
①教科書本文に取り上げられるメジャー事項に対して欄外のマイナー事項
②中央の出来事に対して地方の出来事
③勝者に対して敗者
④男性の武将に対して女性の姫
⑤兄弟に対して姉妹
⑥ライバルどうし
などです。
このように「カウンターパート」があると展開しやすい。先生も納得しやすいし、クラスメイトも「なぜそのテーマを選んだのか」がわかりやすいですからね。
今回は③の「勝者に対して敗者」を考えてみましょう。皆さんはどんなものが思いつくでしょうか?
京都出身の文学部史学科卒で、長年にわたり日本史講師と歴史本作家をしている私が考える例を、
複数あげてみましょう。
職業柄、頭の中に日本地図が常にあるので、各地方を北から南に降りていきましょう。
①北海道には戦国期はないも同然……。
②東北なら太平洋側の伊達政宗と日本海側の伯父・最上義光(もがみよしあき)だけど、
どっちが勝ちってのはないし、豊臣秀吉に屈服してるなあ……。
③関東なら北条氏と佐竹氏と里見氏だけど、
最強の北条氏の4・5代目は豊臣秀吉に屈服したしなあ……。
④北陸なら越後の上杉謙信と越前の朝倉義景(よしかげ)。
でも上杉のライバルは武田だし……。
⑤中央高地なら武田信玄。
でもライバルは北陸の上杉謙信で、5度の川中島の戦いでは決着ついてないし……。
⑥東海なら、おおっ! 織田信長と今川義元の桶狭間の戦い(1560年)が愛知県だ!
よく考えたら関ヶ原の戦い(1600年)も岐阜県だな。
⑦近畿なら、山崎の戦い(1582年)で明智光秀が豊臣(当時は羽柴)秀吉に敗れてるな。
勝敗を分けたのが天王山。「夏休みは受験勉強の天王山」とか言うからタイムリーかも?
⑧中国ならやはり厳島の戦い(1555年)。
毛利元就が陶晴賢(すえはるかた)の大軍を破ってるけど、
負けた陶晴賢の知名度がなぁ。
たしか担任の先生は理系のはずだから、このテーマはないも同然か……。
⑨四国といえば長曾我部元親。
四国の大半を統一したけど織田信長や豊臣秀吉に全然敵わなかったからな……。
⑩九州はそりゃ島津・大友・龍造寺の“九州三国志”。
でも豊臣秀吉に最強の島津が屈服してるからな……。
⑪沖縄は当時は琉球王国で日本じゃないしな……。
これ、何を見てもらってるかわかりますか? 専門家である私の「思考の過程を見てもらってる」のです。
結局、自由研究に取り掛かるうえで一番大事なのは「テーマを決めること」。そして研究の中身としては「これまでこう言われてきたけど自分ならこう考えるけど?」と問いを立てること。
私なら、出身地が京都だということもあり⑦の近畿にします。そして、夏休みということを考えて天王山がらみの山崎の戦いの敗者、明智光秀を選びます。先生やクラスメイトに「なぜこのテーマを選んだの?」と聞かれたときに、2つとも説得力ありますからね。そして明智光秀なら大河ドラマの主人公になったこともあるくらい有名なので、「それ誰? 知らないんだけど?」と言われることはない。でも、本能寺の変の時は勝者側だったことで有名な明智光秀だからこそ「(光秀はわかるけど本能寺の変以外では)よく知らないんだけど?」となってくれる。
『本能寺の変を成功させた光秀はなぜ秀吉に負けたのか?―油断だけが理由じゃない―』……、私ならこれで決まり。この時点で自由研究は半分以上終わったも同然(笑)
物事は、取り掛かり部分に一番のパワーが必要でしんどい。だから8月のこの時期までダラダラ放置してきたわけでしょう?
さあ、皆さんも好きにがんばってみてください!

イラスト/AC