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海軍機の名門が生み出した初期ジェット艦上機の傑作【グラマンF9Fパンサー】

ジェットの魁~第1世代ジェット戦闘機の足跡~ 【第12回】


ジェット・エンジンの研究と開発は1930年代初頭から本格化し、1940年代半ばの第二次世界大戦末期には、「第1世代」と称されるジェット戦闘機が実戦に参加していた。この世代のジェット戦闘機の簡単な定義は「1950年代までに開発された亜音速の機体」。本シリーズでは、ジェット戦闘機の魁となったこれらの機体を俯瞰(ふかん)してゆく。


        飛行中のグラマンF9Fパンサー。ご覧のように直線主翼を備えた機体だが、後に後退翼の発展改良型クーガーが造られる。

         アメリカ海軍は第二次世界大戦勃発後、ジェット機の将来性が見えてくると、他の数社とともに海軍機の名門メーカーであり、同社製の機体の堅牢(けんろう)さから「グラマン鉄工所」のニックネームでも知られるグラマン社に対しても、ジェット機の開発を命じた。

         これに対してグラマン社は、左右の直線主翼にそれぞれジェット・エンジンを装備するグロスター・ミーティアに似た双発のG75案を提出。1946年4月に同案はXF9F-1として試作機開発が認められたが、凡庸な設計であることがわかると、同社は新しいG79案を改めて提出した。

         

         G79案はG75案とはまったく異なる単発機だったが、海軍の都合で同案はG75案に含められて開発が進められ、1947年11月21日にテストパイロットのコーキー・マイヤーが初飛行に成功。かくしてG79案がジェット艦上戦闘機F9Fパンサーとして制式化された。

         

         直線翼の主翼端に燃料タンクを備え、円筒形の胴体にプラット・アンド・ホイットニーJ42(後期はJ48)ジェット・エンジン1基を搭載した単座機で、グラマン社らしい堅牢な造りのパンサーは、アメリカ海軍がファントムとバンシーに続いて制式化した3番目の艦上ジェット戦闘機となった。

         

         パンサーは1950年6月に始まった朝鮮戦争に出撃。翌7月には海軍第51戦闘機中隊“スクリーミングイーグルス”のレナードH.プログ中尉がYak-9プロペラ戦闘機を撃墜し、同戦争におけるアメリカ海軍機による敵機初撃墜を記録。さらに本機よりも高性能のMiG-15ファゴットも、1950年11月9日に初撃墜している。

         

         興味深いのは、1952年11月18日に起こった空戦である。この日、数隻の空母から成るアメリカ機動部隊が北朝鮮への爆撃を実施していたが、ソ連領を出撃した7機のMiG-15が向かってきた。そしてアメリカとソ連は戦闘状態にないにもかかわらず、戦闘空中哨戒中の海軍第781戦闘機中隊“ペースメーカー”のパンサーに発砲。その結果、僚機が帰艦したためエルマー・ロイス・ウィリアムズ大尉はたった1機で、7機のMiG-15と実に35分という長時間の空戦を戦った。

         

         この空戦で、ウィリアムズはひとりで4機のMiG-15を撃墜したものの、彼の乗機も実に263個所に被弾し油圧を失った状態ながら、「グラマン鉄工所」の名に恥じることなくかろうじて空母オリスカニーに帰艦。だが損傷が甚大だったため、彼の乗機は修理されることなく海洋投棄された。

         

         当時、ソ連は朝鮮戦争の交戦国ではなかったため、国際問題化するのを恐れたアメリカ政府は、空戦史上に残る快挙だったにもかかわらずこの空戦を封印。当時、ウィリアムズはシルバースター章を得ていたが、2023年1月になって、これが海軍十字章に格上げされている。

         

         なお、このように朝鮮戦争で大活躍したパンサーは、最終的に1385機が生産され、アメリカでは1958年に退役した。

         

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        過去記事

        白石 光しらいし ひかる

        1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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