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性風俗画を指す言葉「枕絵(まくらえ)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語82


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■枕絵(まくらえ)

 

 春画のこと。笑い絵ともいう。

 

 枕絵を描く絵師を、枕絵師といった。

【図】枕絵を見る女。『艶本婦多津枕』(渓斎英泉、文政六年頃/国際日本文化研究センター蔵)

(用例)

 

①春本『艶道日夜女宝記』(月岡雪鼎、明和元年頃)

 

 初心の女は、まず枕絵を求めて心をうるおし、好もしくきざしたとき、くじりなどにてそろそろ道をあくれば、自然とその気いたりて、新枕(にいまくら)に苦痛なし。

 

 まだ男を知らない処女に、枕絵を見ながら自慰をするのを勧めている。「くじる」は、指で陰部を愛撫すること。

 

「新枕」は、初体験、破瓜である。

 

 

②春本『祝言色女男思』(歌川国虎、文政八年)

 

 大名屋敷の奥御殿。奥女中がひとりで春画をながめている。

 

 三冊物を楽しみに、真にさみしく開いてみれば、画工は誰か知らねども、その余情ある枕絵を、じっと見つめる心の内、しだいに顔があたたまり、

 

 春画を見ているうちに興奮して、顔が上気してきたのである。

 

 

③春本『千摩伊十紙』(歌川国盛二代、嘉永期)

 

 貸本屋が後家に春本を渡す。

 

「まあ、大層、見事な表紙だねえ」

 と、言いつつ手に取り、開いてみれば、生けるが如くに描きたる極彩色の笑い絵なれば、

「おやおや、まあ」

 と言いながら、少しく顔を赤くして、

 

 春本の挿絵は、極彩色の春画だった。ここでは「笑い絵」と称している。

 

 このあと、貸本屋は後家を誘惑するという展開。

 

④春本『正写相生源氏』(歌川国貞、嘉永四年)

 

 初体験をした音勢の述懐。

 

 音勢はかねて話にも聞き、その身もいつぞ、してみたいと思う心はありながら、ただ枕絵で見たばかり。どういう物かと思ったに、今宵初めて味を知り、なるほど悪くもないようだが、何だかはばったくて、

 

 まだ快感を得るにはほど遠い状態である。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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