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【トイレの呼び方】なぜ、便所を「ワードローブ」と呼んだのか? 高価な服をトイレに吊るしていた中世の仰天習慣

中世イングランドの暮らし


「化粧室」「ご不浄」「雪隠」など、日本語でもさまざまな呼び方がされるトイレだが、中世イングランドでは、トイレを「ワードローブ」と呼んでいたという。現代ではオシャレなアパレル用語だが、なぜそんな呼び方になったのだろうか? その背景には「2つの誤解」があった。


 

■便所=ワードローブ!?

 

ワードローブ

 

 現在のアパレル業界を中心に「お気に入りの服を使った着回しスキル」という意味でも使われ、オシャレな日常用語として定着している「ワードローブ(wardrobe)」。原義は「服を守る」という意味です。

 

 しかし、中世イングランド(イギリスの一部)においては「便所」がワードローブと呼ばれていました。なぜ、彼らは便所をワードローブと呼んだのでしょうか?

 

 その背景には、「高価な衣服ほど、便所に吊るして置く」という中世イングランドの驚くべき習慣がありました。

 

■「臭い場所が虫除けになる」と信じられた

 

 この時代のトイレは悪臭立ち込める空間でした。19世紀以前のイングランドには上下水道が完備されておらず、当時、便所といえば「汲み取り式」か、「おまる部屋」です。

 

 そして、中世イングランドでは、蛾が高価な衣服を食い散らかして虫食い穴をあける犯人だと信じられていました。加えて、そういう臭い場所には蛾が嫌がって近づかないと考えられていました。

 

 しかし、実際の蛾は衣服など齧ったりしませんし、高価な衣服に悪臭が移るだけの文字通りの「悪習」だったといえるでしょう。

 

 中世イングランドの生活は教会を中心に行われていましたが、毎週日曜日、教会で行われる聖体拝領の儀式だけには絶対に行かねばなりませんでした。そしてこの時は自分が持っている一番の晴れ着の着用が、一種の「義務」となっていました。

 

 こうして日曜日の教会には、「ワードローブ」から出したばかりの晴れ着をまとった人々が集まり、彼らの晴れ着の繊維の奥まで悪臭が染み込んでいるがゆえ、教会の中は信じられない臭いで満たされていたはずです。

 

 当時、一般人には使用を許可されていなかった、ことさらに良い香りのお香がありました。そのお香の使用がなぜか聖職者にだけ許されていたのは、「ニオイ対策」だったのかもしれません。

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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