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女の絶頂感にたとえる「日本国が一所に寄る」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語66


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■日本国が一所に寄る(にほんこくがひとところによる)

 

 絶頂感、オルガスムスの形容。女の絶頂感にたとえることが多い。

 

 図は、絶頂感を味わい、世迷いごとを口走っている女。

 

日本国がひとつに寄る

【図】世迷いごとを口走る女。(『艶本葉男婦舞喜』喜多川歌麿、享和二年、国際日本文化研究センター蔵)

 

【用例】

①春本『祇園桜』(川枝豊信)

 

 相思相愛の仲の男女の房事。

 

 たがいの思いを晴らすべしと、帯紐解いて、日もまだ暮れぬに戦(いくさ)を始めけるに、相思う仲のやりくり、日本国が一所へ寄るように覚え、
「これは、こうも、こうも」
 と、泣くやら笑うやら、親のことも内のことも忘れはて、面白の今のたわむれ。

 

「戦」はセックスのことである。

 

 

②春本『好色松の香』(川島信清)

 

 奉公人の袖助が、主人の娘を夢中にさせる。陰茎を挿入すると、

 

 金玉ぎわまで、ぬっと差し込めば、娘はハッと生きはずみ、ホッと息つき、
「これは袖助、どうしやる、日本国が一所へよるような、いっそ、し殺しにしや。主(しゅう)殺しめ」
 いろいろ無理なそぞろごと言うて、よがり泣かす。

 

 娘が絶頂感のもと、世迷いごとを口走っている。

 

 

③春本『百入一出拭紙箱』(北尾雪坑斎か、安永三年頃)

 

 せんずり和歌

 

 かき習え指をめめこに入れてみよ日本国がひととこへ寄る

 

 女の自慰を詠んでいる。「めめこ」は陰部のこと。自慰で絶頂感を味わえる、と。

 

 

④春本『枕入秘曲』(小松屋百亀、明和六年)

 

 女が絶頂に達し、あられもない声をあげる。

 

「おお、気がいく、もう、日本国が、日本国が、ひとつやらして、ひとつやらして」
 と、よがる心地よさ。

 

「ひとつやらして」は、ひとつのようでの意味。

 

 

⑤春本『艶本葉男婦舞喜』(喜多川歌麿、享和二年)

 

男「ああ、いい、ああ、さあ、さあ、日本国がひとつになって、身内が溶けて煮こごりになるようだ。その煮こごりでおまんまを食うよりうまい。ああ、いい」
女「ええ、震えのくるほど、いいぞ、いいぞ、ああ、いまが肝心のところだ、もっとぐっと突き込んで、あれさ、あれさ」

 

 ここでは、男の方が「日本国がひとつになった」ように感じている。

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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