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朝ドラ『虎に翼』寅子のモデル・三淵嘉子は「女性初」と言われることにモヤモヤしていた

炎上とスキャンダルの歴史


NHKの朝ドラ『虎に翼』ヒロイン・猪爪寅子(いのつめともこ)。そのモデルとなったのが、女性法律家の三淵嘉子だが、彼女は「女性初の弁護士試験合格者」と、女性を強調されることにはあまり良い思いを抱いていなかったという。社会の不平等と戦った彼女だが、家族の前で見せていた本音、素顔はどのようなものだったのだろうか?


 

■男性中心社会だった昭和 

 

 NHKの朝ドラ『虎に翼』の開始とともに、ヒロイン・猪爪寅子のモデルで実在の女性法律家・三淵嘉子(19141984)にも再注目が集まるようになりました。

 

 戦後、女性にも門戸が開かれた弁護士試験にストレート合格した嘉子ですが、彼女が挑戦した昭和13年(1938年)度の「高等試験司法科」は、現在の司法試験のような短答式ではなく、論文試験が7日にわたって行われる中、必須科目と選択科目を受験せねばなりませんでした。そして論文試験に合格した者だけが、口述試験に進むことができたのです。

 

 しかし、この時に受験したのは2986人のうち、合格者はたった242人。5年以上司法浪人を続けている者も多いのに、ストレート合格できた嘉子はかなりのエリートだったのでしょう。しかし、試験の出来が悪かった日には絶望のあまり、帰宅したとたんに家の玄関で泣き崩れて動けなくなるなど、なかなかに困難も多かったようです。

 

 このとき、合格者には三淵嘉子……ではなく、当時はまだ独身ですから旧姓の武藤嘉子のほか、三度目の受験で合格できた久米愛、田中正子という2人の女性の名前もありました。

 

 嘉子自身は、「女性初の合格者」というように「女性」を強調しすぎる世間の風潮に釈然としない部分があったようですが、息子の芳武によると「女性の差別問題に敏感で、生涯女性の味方でありたい」とも言っていたそうです。こういう「矛盾」こそが、彼女が生き、現代以上の男性中心社会と戦わねばならなかった昭和という時代を象徴しているような気がしてなりません。

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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