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やみくもなピストンではなく、浅く、深く、緩急をつけて「九浅三深」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語65


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■九浅三深(きゅうせんさんしん・くせんさんしん)

 

 深浅法(しんせんほう)のひとつである。陰茎を九回深く、三回浅く、抜き差しするということ。

 

 九浅三深のほか、一深九浅(いっしんきゅうせん)、九浅一深(きゅうせんいっしん・くせんいっしん)もある。

 

 深浅法とは、性交時の挿入した陰茎の動かし方である。

 

 要するに、やみくもにピストン運動するのではなく、膣内を浅く、深く、緩急をつけて前後させねばならないという教え。

 

【図】腰を使う男。(『恋のやつふぢ』歌川国貞、天保期、国際日本文化研究センター蔵)

 

【用例】

①春本『番枕陸之翠』(勝川春章、安永五年頃)

 

 宵のころ、約束した女は内気そうだった。ところが、男が上からのしかかり、

 

 遠慮なしに九浅三深、右三左三、上六下九の秘術を尽くして戦えば、下に手練(てだれ)の受け答え、宵の言葉に引き換えて、十八になる娘とはさらに覚えぬ巧者な仕打ち、

 

 要するに、男は緩急をつけ、巧みに抜き差しをしたのであろう。

 

 下から応じる女も、とても十八歳とは思えぬほど巧みだった。

 

 

②春本『艶本婦多津枕』(渓斎英泉、文政六年頃)

 

ふたりは、女上位の茶臼で始めた。

 

 下には手練の九浅一深、
「ああ、もう、たまらぬ」
 といえば、
「ああ、どうも」
 と、抱き締める。

 

 男は下から、九浅一深を実行した。

 

 

③春本『泉湯新話』(歌川国貞、文政十年)

 

 女が男に、上になってくれと言う。

 

「上にのっておくれ」と言うをきっかけに、上に乗っかり、両の手を女の腰に回して、ぐいと抜いては深く突き、また口元をちょこちょこちょこ、九浅一深、秘術を尽くして突きまわすに、女は今は絶え入るばかり、

 

 九浅三深ではなく、九浅一深である。

 

 

④春本『絵本花乃香』(西川祐信)

 

 男が後家を誘惑した。

 

 男はさしもの手練(てだれ)にて、九浅三深の秘術をおこなえば、女はとんと余念なく、
「ああ、もう、主に別れてから久しゅうせぬゆえか、ようて、ようて」

 

 後家は久しぶりの房事を堪能している。

 

 

⑤春本『仮枕浮名の仇波』(歌川国政、安政元年)

 

 女のよがりように、男も我慢できなくなり、

 

 男も今にこらえきれず、総身の力をいちずに入れ、高腰にスカリ、スカリと三浅九深の秘術を尽くし、突っ込むにぞ、

 

 九浅三深ではなく、三浅九深であり、浅いと深いの回数が逆になっている。

 

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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