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教え子の女子生徒に次々と手を出し… 『山月記』作家による「虎以下のゲス不倫」とは

炎上とスキャンダルの歴史


「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」に振り回されて虎になってしまう、という小説『山月記』は教科書でも馴染み深いが、その作者・中島敦は、虎よりもケダモノのような所業を重ねていた。どういうことか、見ていこう。


  

■東大生のころから遊郭に通う

 

 中島敦と聞いて思い出すのは、現代文の授業で彼の出世作・『山月記』を読んだ記憶と、著者紹介で見た分厚いメガネに、痩せた身体の持ち主だった中島の顔という人は多いと思います。

 

 外見から、中島のことを生真面目なガリ勉タイプだと思いこみ、その私生活のエピソードを聞いて印象が裏切られ、驚くのは当時の人びとも現代のわれわれも同様でしょう。中島は喘息持ちでしたが、それなりに運動神経はよく、東京随一といわれたダンスホール「フロリダ」の一流ダンサーの女性相手にさっそうと踊って評判を取っています。

 

 また東京大学3年の頃には、性のことなど何も知らず、卒論のテーマ選びだけで頭がいっぱいのクラスメートたちを後目に中島1人が遊郭に行き、そこでの体験をさらっと語って聞かせるなど、典型的な遊び人でした。

 

 結婚することになるタカという女性ともいきなりセックスにもちこんで付き合い始めていますし、タカとすでにセックスフレンドだった通称・パン子(※娼婦の意)こと静子とは同時並行的に付き合っていました。

 

 どうやら複数の女性と、関係をお互いにオープンにして付き合いたいというのが中島の性癖だったようです(とはいえ、中島は意中の女性に他にデートする男性がいるだけで嫉妬していたようですが)。

 

■複数の女子生徒に手出し

 

 このように下半身の素行不良が目立つ中島敦は、文筆活動を続けるかたわら、教師として高校に勤めていました。大丈夫か?と思ってしまいますが、まったく大丈夫ではなく、横浜高等女学校の教師をしていた頃には複数の女子生徒に手出しをしていたようです。

 

 中島の妻となったタカの証言によると、小宮山静という裕福な家庭の娘とはとくにねんごろで、中島は妻子がいる身でありながら、小宮山家が所有する御殿場の別荘で静にかしずかれながら、水入らずの1ヶ月過ごしたことまでありました。

 

 小宮山家がどのように中島と静の関係を認めていたのか、気になるところですが、タカによると、静の「お世話で過ごした御殿場から帰った時は、十日間ほど口をきいてくれませんでした」。

 

 一方、中島は静に家庭内のことはほとんどすべて話し、生後3日で亡くなった長女・正子のことを聞いた静が中島家を訪ねてきたこともありました。しかし、中島が対応してくれると思っていたのであろう静は、タカと鉢合わせするとすぐに逃げ帰っています。

 

 中島と静は、彼女が女学校を卒業した後も通算で10年間ほども続きましたが、重病で入院している中島が、看病している家族の前で「シズ、シズ」と彼女の名前を呼んだりするほど慕っていたのに、彼女はタカが怖いのか、中島の葬式にはきてくれませんでした。

 

■妻子そっちのけの婚外恋愛

 

 それでも静たち女生徒との関係より、タカを本当に悩ませていたのは、中島より2歳年下で、結婚を意識していたとも伝わる従妹・褧子(あやこ)との関係だったようです。

 

 中島の中での褧子は両思いでありながら、結ばれることがなかった昔の恋人で、理想化されていたのでしょう。別の男性と結婚した褧子から「妊娠しなかった」――つまり不妊だったという手紙をもらった時には、「褧子のためにも一緒に仲良く、一生懸命生きよう」となぜかタカを相手に宣言し、タカは中島の言葉を聞きながら、「自分との関係は一体なんなのだ」と不快感を覚えたようです。

 

 妻子そっちのけで、あまりにオープンに婚外恋愛に興じる中島に地味に腹を立てていたタカは、「私も子供さえいなければ別れたいと思ったこともあります」と回想しています(以上、田鍋幸信編『中島敦・光と影』~中島タカ「思い出すことなど」)。中島敦の人でなしレベルは、もはや欲望のままに生きる虎とかケダモノというより、「鬼畜」というべきでした。

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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