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秘密結社・フリーメイソンの「無害」な正体 モーツァルトやワシントンも入会した

炎上とスキャンダルの歴史


陰謀論者たちに「世界征服を企んでいる」とみなされている秘密結社・フリーメイソンだが、はじまりは職人たちの集まりであり、その後は進歩的知識人の団体にすぎなかった。モーツァルトも入会し、規約を利用してうまくメンバー達から借金までしている。18世紀の実態はどんなものだったのか、みていこう。


 

■弾圧されたフリーメイソンの無害な正体

 

フリーメイソン、ロンドン

 

 

「フリーメイソン」という単語の意味が、現代のインターネットの文脈では「陰謀を企むものたちの集い」のように誤解されることが多いのは残念なことです。しかし、人道主義、平和主義を掲げ、その理念に共感したヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトやジョージ・ワシントンといった錚々たる面々を幅広い地域で集めていたフリーメイソンが、なぜ、その後の全世界において、「いかがわしい団体」として弾圧されるようになったのでしょうか。

 

 フリーメイソンとは英語で、「自由な石工」の意味だといわれますが、正確には「義務を免除された石工」という意味を持ちます。これは、中世ヨーロッパにおいて、王宮、大聖堂、城塞などの大規模石造建築の工事を担当した職人たちのことを指しています。彼らは王侯貴族や教会組織のトップから手厚く庇護され、それゆえに「自由」でいられるのですね。

 

 彼ら「自由な石工」たちは各地を放浪する中、特権のある自分たちを区別するための複雑な手信号を持っていて、それを見せ合うことで、お互いを「自由な石工」かどうか判断していたのでした。これが後に引き継がれるフリーメイソンの秘儀の源流だといわれます。

 

 また17世紀になると、「自由な石工」の組合に石工以外の人々の加入が許されるようになり、それがいつしか石工などの建築業者以外の人を中心とした組合に発展し、それが現在につづく「フリーメイソン」の組織となりました。

 

■君主たちも受け入れている知識人集団だった

 

 18世紀初頭、ヨーロッパ随一の大都会はイギリス・ロンドンでしたが、当地に存在した「ガチョウと焼き網」「林檎樹」「王冠」「ゴブレットと葡萄」という奇妙な名前の4つの組合(ロッジ)が統合され、「イギリス大ロッジ」となりました。

 

 そしてプロテスタントの牧師のジェイムズ・アンダーソンという人物が、会員たちが道徳を重視し、平和主義、博愛主義を掲げたメイソンの理念を貫いて、「世界中の万人が認める普遍的宗教に到達すること」を目指そうと宣言します。

 

 フリーメイソンは、現実の社会の身分、宗教、文化など違い、そしてあらゆる差別を乗り越えたいと願う進歩的知識人たちの集団となりました。しかし「普遍的宗教に到達」を目指すという理念の一部に、ときのローマ教皇クレメンス12世は反発し、各地の君主に禁止令の発令をうながしたものの、王侯貴族たちにもフリーメイソンのメンバーが多く、教皇の発案が事実上無視されてしまったほどの勢いがあったのです。

 

 ときの神聖ローマ帝国(現在のオーストリア)でもフリーメイソンは禁止されず、ときの皇帝・ヨーゼフ2世は正式なメンバーではなかったようですが、国内に存在した8つの組合(ロッジ)を3つに再統合することを命じたり、彼らの活動に積極的に貢献を見せました。

 

■規約を利用して金を借りていたモーツァルト

 

 1785年、モーツァルトがすることになった組合はその名も「慈愛」といいました。具体的な活動内容は「秘密結社」なのでわかりませんが、モーツァルトの作品目録を見る限り、ほかのメンバー(素人)が作詞したダラダラと長い詩をたくみに裁き、きれいなメロディをつけて男声合唱曲に仕立て、組合の会合の盛り上げに貢献していたようです。

 

 まあ、モーツァルトは金があったらあるだけ使ってしまう性質でしたから、「会員は友愛で結ばれるべき」というフリーメイソンの規約を利用して、うまく借金もできていたようなので、彼のような現実的利益狙いの会員も一定数いたことは否定できないでしょうが、少なくとも18世紀の段階では、少なくとも「いかがわしい団体」ではありえなかったことを理解していただきたいのです。

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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