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連合軍の空からの攻撃に対抗したドイツの「旋風」【IV号対空戦車ヴィルベルヴィント】─戦車ビフォー・アフター!─

戦車ビフォー・アフター!~ニーズが生み出した異形の装甲戦闘車両たち~【第8回】


戦車が本格的に運用され「陸戦の王者」とも称されるようになった第二次世界大戦。しかし、戦車とてその能力には限界がある。そこでその戦車をベースとして、特定の任務に特化したAFV(装甲戦闘車両)が生み出された。それらは時に異形ともいうべき姿となり、期待通りの活躍をはたしたもの、期待倒れに終わったものなど、さまざまであった。


      宿敵たるアメリカ軍攻撃機によって撃破されたヴィルベルヴィント。砲塔側面上方の装甲板の一部が割れてなくなっている。

       2次世界大戦の緒戦での連戦連勝はどこへやら、同大戦後半のドイツ軍は、連合軍の優勢な航空戦力により空軍が劣勢化。そのせいで、自慢の戦車部隊も空から手酷く痛めつけられていた。空軍を頼れない以上、陸軍としては「自分の身は自分で守るしかない」と判断し、対空戦車の開発に力を入れることになった。

       

       幸いにもドイツ軍は、20mm機関砲を4連装化した2 cmFlakvierling 38対空機関砲を保有していた。そこで、連合軍パイロットたちに「魔の4連装」として恐れられた同機関砲を、戦車車台に載せて自走化することが考えられた。

       

       車台に選ばれたのは、ドイツ軍のもっともポピュラーな中戦車であるIV号戦車だった。同戦車の砲塔と砲塔旋回装置を撤去し、代わりに2 cmFlakvierling 38を収めたオープントップ(天井がない開放式)の新しい銃塔を搭載。360度全周旋回で俯仰角はマイナス10度からプラス100度なので、対空射撃だけでなく地上掃射も行えた。

       

       この砲塔は上から見ると9角形で、全周が16mm装甲板で造られており、低空を高速で飛び抜ける連合軍のヤーボ(ドイツ語の「ヤークトボンバー」の略。連合軍の対地攻撃機の総称としてドイツ軍将兵はこう呼んだ)を追尾するため、旋回速度の速い油圧旋回装置が搭載された。

       

       完成すると本車にはヴィルベルヴィントの愛称が付与されたが、これはドイツ語で「旋風」という意味である。

       

       ヴィルベルヴィントは、車台にはほとんど手を加えずにIV号戦車を改造して造れるので生産性は良好だった。しかし新規の車台ではなく、前線から修理やオーヴァーホールのため本国に戻って来る同戦車を改造したので、生産数は100両に満たなかったとされる(84両説や122両説がある)。

       

       このように生産数こそ少なかったものの、連合軍による空からの脅威に晒され続けていた前線部隊では、対空戦闘のみならず対地攻撃にも使えることとも相まって、概ね好評を得ている。

       

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      過去記事

      白石 光しらいし ひかる

      1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。

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