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日本初・女性議員第1号【加藤シズエ】が尽力した女性の労働問題と育児問題

日本の職業の道を切り拓いたはじめての女性たち【その2】


華族に嫁いだものの労働者問題に燃える夫の影響で、働女性たちの抱える問題に慧眼(けいがん)。戦後は再婚した夫ともに、国会議員として活躍した。


加藤シズエ(国立国会図書館蔵)
シズエが若い頃の写真。48歳で産んだ娘は、コーディネーターの加藤タキ。シズエは100歳を越えてもテレビなどに出演するなど精力的に活動した。

 

 戦後まもなくの昭和21年(1946)、一度に39人もの1期生が誕生した。何のこと? というと、これは女性国会議員ことである。1期生の中には名古屋帯を考案した人、女学校教師、会社の経営者など様々な経歴の持ち主たちがいたが、その中で最も支持を得たのが加藤静江こと加藤シズエである。

 

 加藤は再婚した夫の姓。シズエは裕福な実業家の娘として生まれ、大正3年に女子学習院を卒業するとすぐに、17歳で10歳年上の石本恵吉(いしもとけいきち)男爵と結婚した。親が決めた縁談ではあったが、彼女が尊敬していた新渡戸稲造(にとべいなぞう)の教え子で、労働者のために尽くす石本を、偉い人だと思っていたという。石本男爵は新婚早々福岡県にあった三井炭鉱の三池炭鉱に労働者の実態調査のために移り住む。そこでシズエは、男性同様に炭鉱で長時間働いた上に家事、育児を行う女性を目の当たりにした。その結果シズエ自身も労働問題に関心を寄せるようなった。

 

 石本男爵は労働問題を研究するため単身渡米。大正8年、2児の母であったシズエも子供を実家に預けてアメリカに渡る。「日本語は一切使用しないこと」「仕事を見つけて自立すること」を約束させて、夫はシズエを一人ニューヨークに残して、ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国に行くため去ってしまう。右も左もわからない異国に取り残されてしまったシズエだが、必死で英語を身に着け秘書学で優秀な成績で収めた。このころ産児制限運動家のマーガレット・サンガと知り合う。炭鉱で望まない妊娠のために苦しむ女性たちをたくさん見てきたシズエは、彼女の運動に傾倒する。そして日本産児調節婦人連盟を設立するなど活動の幅を広げていく。また、アメリカの自由主義を体感したことも彼女の人生に大きな影響を与えた。

 

 一方ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国に向かった石本男爵は、華族であるがゆえに入国を拒否される。彼にとってはこれが人生を変えるほどの挫折であった。挫折から這い上がるために満州国の建国に熱中する石本男爵は、家庭を一切顧みなくなってしまう。こうした石本男爵を目の当たりにしてシズエの心も石本男爵から離れていき、シズエは昭和8年(1933)、満州にいた石本男爵に離婚して欲しいという手紙を出した。

 

 これに対し、石本男爵は「君は賢くなりすぎて、僕の手には負えない」と承諾したというが、当時、華族が離婚するというのは大変不名誉なこととされていた上、宮内省の承認が必要だったため、なかなか許可が下りず、正式に離婚が成立したのは、昭和19年(1944)、47歳の時だった。その半年後に、労働運動家の加藤勘十(かとうかんじゅう)と再婚した。加藤は日本社会党の設立メンバーの1人で石本男爵の協力者であり、大正9年にシズエがアメリカから帰国したころから、何度か顔を合わせているうちに引かれていったという。

 

 再婚の翌年48歳で第3子となる女子を出産。大学卒業直前の次男を結核で失ったことと、加藤との子供が欲しいと熱望していたことが大きかったようだ。

 

 昭和201121日、治安警察法が廃止され、女性の結社が認められると、婦人民主クラブの結成に参加。昭和214月に行われた第22回衆議院議員総選挙に日本社会党から立候補し、見事最高得票を獲得して当選。夫の加藤勘十とともに政界入りを果す。その後衆議院議員を2期、参議院議員を4期務めた。国会議員を辞めてからも一貫して女性の立場向上、望まない妊娠や出産から女性を守るために尽力した。昭和50年には勲一等瑞宝章を授与され、平成13年(2001)、104歳で亡くなった。

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加唐 亜紀

1966年、東京都出身。編集プロダクションなどを経てフリーの編集者兼ライター。日本銃砲史学会会員。著書に『ビジュアルワイド図解 古事記・日本書紀』西東社、『ビジュアルワイド図解 日本の合戦』西東社、『新幹線から見える日本の名城』ウェッジなどがある。

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