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眠らせず、裸で吊るし… 凄惨なリンチの末、亡くなることも 逃亡に失敗した吉原遊女の「恐ろしい末路」

炎上とスキャンダルの歴史


蔦屋重三郎(演:横浜流星)を主人公に、吉原の伝説の遊女・花の井(演:小芝風花)、田沼意次(演:渡辺謙)が登場するNHK大河ドラマ『べらぼう』。前半は吉原の世界を舞台としているが、吉原は当時の他の色街と比べても遊女の扱いが悪く、市中に遊びに出ることも許されなかった。客と一緒に逃げ出す遊女もいたが、見つかって連れ戻されれば、真冬に裸で木に縛りつけたり、天井から吊るしたりと、凄惨なリンチを受けることになったという。どういうことか、見ていこう。


 

■高い壁と溝で囲まれ、厳重に出入りを監視された

 

江戸染杜若絞(国立国会図書館)

 

 吉原は、江戸期の日本全国で3箇所だけあった官許の遊郭でした。江戸吉原、京都島原、大坂新町を「三大遊郭」と呼びます。その筆頭たる江戸吉原は御公儀(幕府)から直々に営業許可され、最高の格式を誇る色街とされました。

 

 しかし――江戸吉原は、ほかの京都島原、大坂新町と比べても恐ろしいほど遊女の待遇が悪いことで有名な色街でした。

 

 吉原においては、きわめて厳重に人の出入りが監視されました。唯一の通行口・吉原大門(おおもん)のそばには通称「四郎兵衛会所」が設けられ、ここで人の出入りは厳重にチェックされています。

 

 ちなみに吉原へは髪結いや、各種物売りなどの女性が日常的に出入りしていましたが、彼女たちも「女切手」とよばれる木片を手渡され、帰る時にはきちんと返却せねば出してもらえないほどの管理体制だったのです。

 

 これは変装した遊女の逃亡を阻止するための試みで、ほぼ正方形の形をした吉原の街を囲むのは高い壁だけではありません。壁の四方は通称「お歯黒溝」が取り囲んでおり、さらに溝の上にも逃亡防止のための板などがかけられたりしていました。京都島原や大坂新町では、遊女であっても比較的自由に市中に遊びに行ったり、客と長期旅行に出かける遊女もいたほどだったのに……。

 

■男客は「出禁」で済む一方、遊女は拷問を受けた

 

 ここまで厳戒態勢の吉原でしたが、遊女の逃亡発覚はわりとよくあったようです。その場合、所属店の男衆が必死で探索し、通常は3日とたたずに遊女は発見され、吉原に連れ戻された後はひどい折檻を受けるのでした。

 

 客と逃亡した遊女は、もう絶対に逃げ切れないことを覚悟し、心中するのが常です。しかし、不幸にして死にきれないうちに捕まった場合は、御公儀(幕府)の「心中禁止令」に違反した罪人として、まずは男女とともに日本橋のたもとに縛り上げられ、3日間、晒されました。

 

 その後、男客は吉原への出禁だけで済みますが、遊女は悲惨で、眠らせない、食事をとらせない、真冬の夜に裸にして木にしばりつける、きわめつけは縛り上げて天井から吊るす(通称「つりつり」)といった拷問を受けさせられます。

 

「つりつり」だけは楼主が行い、あとの拷問は女将の指図のもとに、遊女の年季を終えても行き先がなかった元遊女の遣り手婆や、店の男衆が担当したそうです。吉原は通常の法などまったく通用しない、恐ろしい世界だったことが伺えますね。

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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