×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画
歴史人Kids
動画

「曲が作れないのは、悪魔に憑かれているせい」ミュージシャンが殺された驚愕の理由 バラバラ殺人はなぜ起きたのか【戦後犯罪史】

世間を騒がせた事件・事故の歴史

 

■不眠不休で続いた解体作業

 

 ここでいよいよ、三者は一線を越えてしまう。悪魔を追い出すにはAさんが一度死ぬ必要がある悪魔が去ればAさんも蘇るという結論に達したのである。22日の夕方、XAさんの首を絞めて殺害し、Yも力を貸した。しかし、Aさんが犠牲になっても、悪魔が去ったとはならなかった。

 

 次にXは遺体の解体を主張し、Yもそれに従った。刃物を用い全身をバラバラにしたのち、清めるために、それぞれを粗塩で揉んだ。驚くべきことにXY3日間、ほとんど不眠不休でその作業を続けたという。

 

 一方、行方不明になったAさんとYのことを心配した家族やバンド仲間らは、警察に相談していた。これまでの経緯から2人がX宅にいる可能性が高いと考えた家族らは、25日の夜に警察のアドバイスに従い、アパートの経営者に同行してもらう形で合鍵を用いてX宅のドアを開ける。これが、XYの逮捕のきっかけとなる。

 

■裁判所は「責任能力あり」と判断

 

 当初は多くを語ろうとしなかった2人だが、徐々に悪魔祓いを目的にAさんを殺害し、遺体を損壊した経緯を話すようになった。裁判ではXYの精神鑑定が行われ、横浜地裁は両名に「責任能力がある」と判断した。

 

 1992年513日、横浜地裁はXに懲役14年、Yに懲役13年の判決を言い渡した。Yは控訴せず、判決が確定。Xは控訴したが、東京高裁はそれを棄却し、こちらも判決が確定した。

 

「藤沢悪魔祓いバラバラ殺人事件」は、日本の犯罪史においても特異な猟奇事件として記録されている。事件の根幹には、Xの宗教的な支配観念があった。そこには金銭欲や性欲の匂いはなく、悪魔を追い払わなければならないという使命感が行動原理となっていた。

 

 また、XAさんに強い影響力を持っていたことも背景として指摘される。Yもブレーキ役にはならず、「悪魔に取り憑かれている」と言われると、疑うことも、一笑に付すことなく、それを信じ込んでいたようである。

 

 アンバランスな関係性、音楽活動や結婚生活の行き詰まり、さらに狭いアパートの一室という閉鎖的な環境。それらが「悪魔祓いをしなくてはいけない」という思い込みを強め、悲劇につながってしまったのかもしれない。悪意だけではなく、使命感からも残酷な事件は起こりうる──その教訓として、記憶しておかなければいけない事件のひとつだろう。

 

KEYWORDS:

過去記事

ミゾロギ・ダイスケ 

昭和文化研究家、ライター、編集者。スタジオ・ソラリス代表。スポーツ誌編集者を経て独立。出版物、Web媒体の企画、編集、原稿執筆を行う。著書に『未解決事件の戦後史』(双葉社)。

最新号案内

『歴史人』2025年10月号

新・古代史!卑弥呼と邪馬台国スペシャル

邪馬台国の場所は畿内か北部九州か? 論争が続く邪馬台国や卑弥呼の謎は、日本史最大のミステリーとされている。今号では、古代史専門の歴史学者たちに支持する説を伺い、最新の知見を伝えていく。