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【江戸の人気観光スポット案内】今と江戸時代では大違い⁉ 高倉健の先祖も見学した夢の国は「吉原」

江戸の人気観光スポット【第5回】


男性にとっては理想の女性と遊ぶことができる夢の国吉原(よしわら)。ここは、江戸を代表する観光スポットとして、男性だけでなく、女性たちも見学コースに組み入れていた。


東都名所・吉原仲之町夜櫻(東京国立博物館蔵 Col Base)
歌川広重が「東海道五拾三次」で、一世を風靡した後に手がけたと考えられている東都名所シリーズのひとつ。吉原のメインストリート仲之町の夜桜風景を切り取っており、花魁のほかたくさんの人々が行きかっている。

 皆さん、吉原を御存じだろうか。かつて日本に存在した史上最大級で幕府公認の遊郭だ。男性にとっては夢の国だったようだが、金さえ出せば女性と同衾(どうきん)できる、という場所ではなかった。

 

 太夫(たゆう)や花魁(おいらん)と呼ばれる女性がいるような高級店では、3回同じ女性に会いに行かなくては床入りできないことになっていた。この時自分の身なりに気を使わなかったり、金を出し渋ったりすると、そこでゲームオーバー。3回通って床を共にするようになっても他の花魁に手を出してはいけない。浮気がばれた場合には、眉を剃られる、髷(まげ)を落とされるなど、当時の男性が恥ずかしくて人前に出られなくなるような姿にされてしまうのだ。というのも、当時は遊郭に「性」ではなく、「恋愛」を買いに行っていたのだからだ。恋愛だから会ったその日に床入りはしないし、浮気をしたら罰を受けるのである。

 

 恋人ならば自分の興味があることに関心をもってもらいたいし、時には一緒に趣味を楽しみたい。自分の話を理解して欲しい。さらにいえば、他人の恋人よりもきれいで、おしゃれで優しい女性でいてもらいと思うようだ。こうした男性のわがままな欲求にも対応できるよう、太夫や花魁たちは、生け花、茶の湯、三味線、筝、唄、踊りなど人々を楽しませる腕をもっていた。そのうえ、当時人気のあった囲碁や将棋の相手もできたし、和歌などを詠むことができるなど様々な教養も身に着けていたのである。

 

 もちろん、内面だけなく、外見も腕によりをかけて磨き上げていた。こうした花魁たちの美しい姿は、宣伝も兼ねた浮世絵となって安価で売り出される。ところが花魁の浮世絵を買うのは男性だけではなかった。今でも女性アイドルの写真集を女性が買うことがあるようだが、当時は、こうした遊女たちは、時代の最先端を行くファッションリーダだったのである。女性たちは遊女の絵姿を見て化粧や髪型、着こなしなどをまねた。ただし、花魁の金に飽かせたファッションのすべてを庶民がマネすることはできない。そこで、帯の結び方など自分たちでもできることだけを取り入れて最新のファッションを楽しんだのだ。

 

 だから、吉原は男性だけでなく、女性たちにとってもあこがれの地であった。特に、春は仲之町通りの真ん中にある植え込みに桜を植えたので花見に訪れる人が多かったという。といえば、“えっ、女性を買わない人も吉原に行くの?”と驚かれるかもしれないが、実は、吉原は、江戸を訪れる人々にとって、人気の観光スポットだったのだ。案内所である揚屋や引手茶屋で待つ客から指名を受けた花魁が、きらびやかな衣装に身を包み、供を連れて遊女屋から向かう吉原道中を一目見たいという人が多かったらしい。

 

 当時江戸の宿屋では、1200文ほどで江戸見物のガイドを斡旋していたが、希望すれば吉原を組み込んでくれた。こうしたガイドを雇えば気軽に女性でも吉原を見学することができた。たとえば、新選組誕生のきっかけを作った幕末の志士清河八郎(きよかわはちろう)の遠縁にあたる女性のきよは、吉原で花魁道中を見たことを日記に書き残している。また、国民的スター高倉健の数代前の先祖・小田宅子(おだいえこ)は、友人たちと江戸へ来て吉原を見学し、引手茶屋に上がっている。ここでは遊女の支度ができるまで宴席を張って待つことになっていたが、宴会だけの客もOKだった。小田宅子たちは女性たちのグループだったので花魁は呼ばなかったようだ。

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過去記事

加唐 亜紀

1966年、東京都出身。編集プロダクションなどを経てフリーの編集者兼ライター。日本銃砲史学会会員。著書に『ビジュアルワイド図解 古事記・日本書紀』西東社、『ビジュアルワイド図解 日本の合戦』西東社、『新幹線から見える日本の名城』ウェッジなどがある。

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