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墳墓の形は大和王権成立以前の勢力変遷を反映している!? 円墳と方墳に込められた意味とは

「空白の4世紀」と弥生王国の謎


故人を埋葬する墓というものには形状へのしきたりや埋葬時の儀式・習慣が今もあり、それは地方によって様々です。納骨の儀礼なども地方や宗派によっていろいろです。現代のように全国均一に文化や価値観がならされていても、いざ葬儀や納骨の時には多様な風習があって驚く事があります。


■円墳と方墳は文化的アイデンティティの表出か?

 

 まだ文化や価値観が地域によって全く違っていた古代社会においては、その個性にはもっと大きな違いがあったことでしょう。その異文化ともいえる地域に「前方後円墳思想とルール」を持ち込んだ大和王権は、強大な力と抜きんでた文化力を持っていたのだと考えざるを得ません。

 

 古墳やその前の弥生墓の形を分類すると、大きく「丸と四角」に分けられると思います。単に故人を土中に直に埋葬するならその墓は丸い土饅頭に自然となったようです。つまりその延長線上にある円形の墳丘は、あまり思想に左右されない自然発生的な形が原点ではなかったでしょうか?

 

 そう考えると、わざわざ四角形に墳墓を整形した人々には何らかの思想、何らかの伝統があったのではないかと疑いたくなります。円形の土饅頭墓とわざわざ一線を画した四角形(=方形)墓は、敢えて文化的アイデンティティを主張したのではないかと思うのです。

 

 大和王権の主体とされる天孫族系には円墳形、その前の出雲族系には方墳形が多いように感じます。

弥生時代後期の代表は四隅突出型墳丘墓と呼ばれる方形のもの、ほかにも弥生時代に無数に造営された方形周溝墓が近畿各地にも残されています。

 

 大和王権拡充の時の指標はまちがいなく前方後円墳の広がりといえますが、この墳形は円墳と方墳の融合なのでしょうか? 私には全くそうだとは思えません。

 

 前方後円墳の前方部の形には撥型や柄型もありますが、巨大な三角形で設計されたとしか思えない物も多くあり、時代差や地域差にも左右されるようです。6世紀前半の今城塚古墳と呼ばれる継体大王墓は三角形の代表格でしょうか。むしろ後円形なのか後方形なのかが、被葬者の出自をはっきり主張しているとしか思えないのです。

今城塚古代歴史館展示 の古墳型。前方部は後円部の軸線を頂点にした二等辺三角形で設計されているのではないだろうか?前方後円墳形が、円墳と方墳の合体した物とは思えない理由の一つ。
撮影:柏木宏之

 私は静岡県沼津市で近年発見された高尾山古墳の調査結果を注目するべきだと思っています。畿内の大和王権とのかかわりを持たずに、東海地域(今の愛知県周辺)の勢力が箸墓よりも若干早めに築造したと考えられる前方後方墳だからです。

 

 奈良県桜井市の纒向遺跡から出土する外来土器の多くが東海式の特徴を示す事実も、東海地域の強大な文化国家が愛知県あたりにあったのだろうと考えさせられますし、大和王権の設立に東海地方の勢力が大きくかかわっているとしか思えません。

 

 と、するなら初めて造られたのは前方後方墳であって、これを政権を奪った大和王権の主体である天孫族が伝統的な後円墓形に変更して、前政権の方形を否定したのではないかと私は疑っています。つまり出雲の国譲り神話には、事実が根底に大きく埋め込まれていると考えるわけです。

 

 4~5世紀に造営される古墳群は、一基の巨大な前方後円墳を中心に、陪冢(ばいちょう)がいくつかセットになったグループで形成されます。そこには上下関係を示すヒエラルキーがあったという事も示しています。そして、その陪冢には小型の前方後円墳型、円墳型、帆立型、方墳型が混在して採用されます。それらは主墳の被葬者政権を運営した重要な連合スタッフの墓であり、それぞれに出自を主張して造営された古墳だと、私は考えているのです。

出典:『歴史人』2024年11月号

 このように円形と方形の墳墓型は、大和王権成立以前の日本列島の勢力履歴も示していると考えるのです。つまり日本列島の二大王権を出雲族と天孫族と分けるとするなら、それは方墳族と円墳族ともいえるのではないかと考えているのです。そして大和王権に出雲族が組み入れられたことを古墳群は示しているのではないのでしょうか?

 

 神話に秘められた古代国家の変遷淘汰繁栄の結果生まれたのが、方と円の墳丘の原因であろうと私は解釈しているのですが・・・。皆さんはどうお考えになるでしょうか?

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柏木 宏之(かしわぎ ひろゆき)
柏木 宏之かしわぎ ひろゆき

1958年生まれ。関西外国語大学スペイン語学科卒業。1983年から2023年まで放送アナウンサー、ニュース、演芸、バラエティ、情報、ワイドショー、ラジオパーソナリティ、歴史番組を数多く担当。現在はフリーアナウンサーと同時に武庫川学院文学部非常勤講師を務め、社会人歴史研究会「まほろば総研」を主宰。2010年、奈良大学通信教育部文化財歴史学科卒業学芸員資格取得。専門分野は古代史。歴史物語を執筆中。

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