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朝ドラ『虎に翼』モデルが直面した「グロテスクな男尊女卑」とは? 「わきまえる」ことを強いられた時代

炎上とスキャンダルの歴史


NHKの朝ドラ『虎に翼』ヒロイン・猪爪寅子(いのつめともこ)。そのモデルとなったのが、実在の女性法律家・三淵嘉子だが、彼女が生きた時代、既婚女性は「無能力者」の扱いを受けていた。嘉子は女性の味方として戦おうと弁護士になったが、そもそもの訴訟件数が少なく、弁護士活動ができなかったという。どういうことなのか? そして、彼女はその困難をどう乗り越えたのだろうか。


 

■「わきまえる」ことを強いられた戦時中の既婚女性

 

 NHKの朝ドラ『虎と翼』のヒロイン・猪爪寅子(いのつめともこ)のモデルで、実在の女性法律家・三淵嘉子(19141984)。

 

 嘉子は日本史上初の女性弁護士にして、女性裁判官となった人物なのですが、彼女が現在の司法試験に相当する、昭和13年(1938年)度の「高等試験司法科」に合格し、女性弁護士としての活動資格を得た直後、日本は太平洋戦争中に突入してしまいました。戦時中には訴訟件数が激減するらしく、せっかく弁護士になったものの、彼女にはほとんど弁護士活動ができないままだったそうです。

 

 戦前の女性は、大日本国憲法と同時期に定められた民法の影響下にありました。一部の法律家でさえ「日本の美しい家庭制度を守る」などと考えていた戦前の民法ですが、女性が結婚して妻になった瞬間、夫という存在に自分の人生のすべてを預け、法律的な問題はもちろん、夫の意向には絶対に逆らえない存在にされてしまうなど、現代的な観点からは大いに問題がありました。

 

 既婚女性は「無能力者」の扱いを受けるので、夫婦間において固有財産の主張はできないし、夫の問題行為を原因とする離婚希望も叶えられるか難しく、裁判沙汰になることが多かったのですが、戦時色が濃くなるにつれ、嘉子が本来、担当するはずだったそういう裁判自体が数少なくなってしまったそうです。

 

 もちろん離婚する夫婦は多いままでしたが、夫妻ともに仲が悪いなりに戦争という大事の前には「わきまえる」というか、団結しなければならない空気が漂い、夫に後顧の憂いなく戦地で戦ってもらえるよう、争うことなく、スパッと問題を解決させてしまったらしいのです。それが美徳とされたのはなかなかにグロテスクな状況といえるかもしれません。

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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